多くの作物を授粉するハチの繁殖力に、ネオニコチノイドという殺虫剤が世代を超えて悪影響を及ぼす。そんな研究結果を示した論文が、11月22日付けの学術誌「米国科学アカデミー紀要(PNAS)」に発表された。
そのハチは、ツツハナバチの一種であるブルーオーチャードビー(Osmia lignaria)だ。果樹の相棒として、リンゴ、サクランボ、アーモンド、モモといった人気作物の授粉を担い、米国に自生する多くの花も授粉している。
大きさはミツバチとほぼ同じだが、ほかの点はかなり異なる。青い金属のような光沢を帯び、単独生活を送り、花粉を脚でなく腹部の毛に付けて運ぶ。
多くの花粉媒介者と同様、農業に不可欠な存在である一方、ブルーオーチャードビーはネオニコチノイドと総称される殺虫剤にとても弱い。
今回の論文では、幼虫の母親がネオニコチノイド系殺虫剤であるイミダクロプリドにさらされると、幼虫が成熟後になす子の数が20%減ったと報告している。幼虫に影響が出るのは、母親が与える花粉と花蜜に殺虫剤が含まれているせいで、これは世代を超えた影響だ。また、個体が殺虫剤に複数回さらされた場合、回数が増えるごとに繁殖力は低下した。
「影響は加算されます。1度の経験(暴露)をそのとき限りの話と考えてはいけません」と、研究を率いた米カリフォルニア大学デービス校の博士研究員クララ・スタリグロス氏は話す。
多くの場合、ハナバチは環境内で何度も殺虫剤にさらされるため、今回の結果は重要だ。農薬の害を測定し、政策立案者が規制の判断に使用する環境リスク評価では、世代をまたいで蓄積するこのような影響は考慮されないとスタリグロス氏は説明する。
ネオニコチノイドがハナバチをはじめとする益虫の減少に関係している証拠はいくつもあるが、今回の論文の新たな発見は、ネオニコチノイドの影響が世代を超えうると示した点だと、研究者兼養蜂家のスティーブ・ピーターソン氏は話す。氏は米カリフォルニア州北部のフットヒル・ビー・ランチでブルーオーチャードビーなどを飼育している。
「これらの研究結果は、私たち養蜂家の多くが農地で起きていると思っていたことを裏付けるものです」とピーターソン氏は語る。「私たちはこの数十年、あらゆる昆虫の激減を目の当たりにしてきました。環境に残る殺虫剤がその主な要因かもしれません」。なお、氏は今回の研究には参加していない。
また、ミツバチも在来種のハナバチも、温暖化や気候変動、ミツバチヘギイタダニなどの寄生虫、病原体、開発に伴う植物多様性の喪失といった脅威にさらされている。(参考記事:「ハチが減っている、目撃される種数が世界で25%減」)