クマ農場が続々閉鎖、人々はもはや伝統薬に「無関心」、ベトナム

密猟が増える恐れも低下、対策が奏功、他国への広がりに期待

2021.11.24
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
クマ農場がなくなったらどうするかという質問に対しては、「クマの胆汁はもう使わない」「元々、胆汁はあまり使わない」という回答があった。 (PHOTOGRAPH BY FREE THE BEARS)
クマ農場がなくなったらどうするかという質問に対しては、「クマの胆汁はもう使わない」「元々、胆汁はあまり使わない」という回答があった。 (PHOTOGRAPH BY FREE THE BEARS)
[画像のクリックで拡大表示]

胆汁人気が急降下

 米サンディエゴ動物園野生生物連盟のエリザベス・デイビス氏が主導した今回の研究では、ベトナムの7つの地域で2400人以上を対象に、胆汁について調査が行われた。その結果、「今までにクマの胆汁を使ったことがある」と答えた人は、全体の約3割だった。最も多かった使用目的は、打撲、関節痛、腹痛、産後のケアだった。胆のう入りのお酒が飲まれることもある。前年度に野生のクマの胆汁を摂取したと答えた人は22人で、1%にも満たなかった。

 論文の著者の一人であり、Free the Bearsの地域ディレクターでもある生態学者、ブライアン・クラッジ氏は、使用率の低さには関心の低さが関係していると言う。ベトナムで全てのクマ農場が閉鎖されたらどうするかという質問に対して、多くの人は無関心のようだった。「クマの胆汁はもう使わない」「元々、胆汁はあまり使わない」との回答もあった。この傾向は、昨今の各地の農場閉鎖の傾向と一致している。Four Pawsによると、58省のうち34省が、省内でクマの飼育は行われていないと発表している。

 消費者は「農場由来の胆汁が手に入らなくなったらどうするのだろう」と、当初クラッジ氏は懸念していた。野生のツキノワグマやマレーグマの胆汁が使われるようになり、密猟が増えるのではないかと。しかし、そのような事態にはなっていないようだ。ここ数十年で生息地の喪失や違法な狩猟によって野生の個体数が激減していることもあるが、胆汁の需要そのものが減少しているのだ。

 野生のクマの胆汁は 「ますますニッチ」になっているという。過去1年間に野生のクマの胆汁を使用したと回答したのは、中部のゲアン省の人々だけだった。過去に、ベトナムの消費者は野生由来の胆汁を非常に好んでいたため、人気が下がっていることは驚きだったとクラッジ氏は言う。

ハーブなど代替品が普及、他国への広がりに期待

 回答者の多くは、クマの胆汁の効果を信じるとしながらも、1950年代から製造されている合成の胆汁を「強く好んでいる」ことが分かった。

「農場でクマがどれだけ苦しんできたか、そしてもはや人々がどれだけ胆汁に無関心であるかを考えれば、クマの飼育はずっと前に終わらせられたかもしれません」とクラッジ氏は言う。「人々が代替品を望むのであれば、クマを農場で飼育する理由が1つ減ることになります」

 アニマルズアジアのベトナムディレクターであるトゥアン・ベンディクセン氏は、10年以上前から、クマの胆汁の代わりにハーブを使った治療法を普及させるキャンペーンを行っている。今回の調査には参加していない同氏だが、打撲や炎症の治療に「cỏ mật gấu(熊胆草)」と呼ばれる代替品を使用していると回答した人が15.7%もいたことが、特に嬉しかったと言う。アニマルズアジアは、2020年までにクマの胆汁を処方することをやめると宣誓したベトナムの伝統医学協会から、この代替品の存在を教えられた。

 ベンディクセン氏のチームは、風邪やインフルエンザ、関節痛などの症状に対して、クマの胆汁に代わる植物、例えばシナモン、アザミ、ルバーブなどについてまとめた本を制作し、普及させている。無料の健康クリニックを開き、ハーブガーデンも始めた。

 クラッジ氏のチームによる研究は、「私たちが正しい道を歩んでいることを確信させてくれました」とベンディクセン氏は言う。「私たちがやってきたことが実を結び始めているのです」

 クマの胆汁が「かつては必要不可欠な家庭薬と考えられていた」ベトナムでの調査結果を踏まえ、他の国でもクマの胆汁の需要を減らす可能性を検討すべきだ、とクラッジ氏は言う。中国の人々は代替品を受け入れてくれるだろうか? 「それを知るために、研究を拡大する余地があると思います」と同氏は語る。

ギャラリー:違法取引の危機にさらされる希少な野生動物たち 写真8点(写真クリックでギャラリーページへ)
ギャラリー:違法取引の危機にさらされる希少な野生動物たち 写真8点(写真クリックでギャラリーページへ)
胆のうから胆汁を採取するために鎮静剤を投与され、床に大の字に横たわるツキノワグマ。クマの胆汁への需要の高まりは、アジアのクマが直面する主要な脅威の1つになっている。(PHOTOGRAPH BY MARK LEONG, NATIONAL GEOGRAPHIC)

会員向け記事を春の登録キャンペーンで開放中です。
会員登録(無料で、最新記事などメールでお届けします。

会員登録(無料)のメリット

  • 1ナショジオ日本版Webの
    無料会員向け記事が読める
  • 2美しい写真と記事を
    メールマガジンでお届け

文=RACHEL FOBAR/訳=桜木敬子

おすすめ関連書籍

動物たちのしあわせの瞬間 増補版

親子で寄り添い、食べて、遊んで、恋をする。動物たちの自由でしあわせな姿に、元気をもらえる!世界中の動物たちのしあわせを感じる瞬間を集めた写真集。前作から5年間の新作を追加して発行する増補版です。

定価:3,520円(税込)

  • このエントリーをはてなブックマークに追加