サンゴを壊滅させる謎の病、カリブ海周辺で拡大中、原因不明

船のバラスト水で拡大か、サンゴ礁を形成する種の「イシサンゴ組織喪失病」

2021.11.17
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イシサンゴ組織喪失病(SCTLD)にかかったマウンテネス・スター・コーラル(Montastraea faveolata)。目印として、研究者は病気の急速な進行を示す場所に釘を打ち付けた。(PHOTOGRAPH BY LUCAS JACKSON/REUTERS VIA ALAMY)
イシサンゴ組織喪失病(SCTLD)にかかったマウンテネス・スター・コーラル(Montastraea faveolata)。目印として、研究者は病気の急速な進行を示す場所に釘を打ち付けた。(PHOTOGRAPH BY LUCAS JACKSON/REUTERS VIA ALAMY)

 カリブ海のサンゴにひたひたと脅威が忍び寄っている。少なくとも22種のサンゴが、「イシサンゴ組織喪失病(SCTLD)」という病気にかかって死んでいるという。感染したサンゴの群体には、白い膜が現れる。それは次第に広がり、やがてサンゴは色を失い、死に至る。被害を受けやすい種は、数週間から数カ月ほどで死滅するという。なかには、この辺りでは最大級かつ最古級で、サンゴ礁で重要な役割を果たしているサンゴも犠牲になっている。

「これまで見たことがない、最悪の状態です」と話すのは、米フロリダ州マイアミを拠点とする観光コンサルタント会社「ダイアル・コーディー・アンド・アソシエイツ」の主任科学者で、サンゴの病気に詳しいウィリアム・プレクト氏だ。

 SCTLDの原因は不明だが、細菌かウイルス、またはその組み合わせによって広がっていると考えられている。2014年にマイアミ沖で初めて発見されて以来、フロリダ州沿岸とカリブ海北部のほぼ全域に広がり、現在はメキシコからホンジュラス、セントルシアまで少なくとも20カ国の領海で確認されている。2021年5月には、サンゴの多様性で知られるフロリダ州のドライ・トートゥガス国立公園でも感染が報告された。

 カリブ海では、サンゴ礁の生態系の根幹を成すサンゴが、気候変動による海水温上昇、環境汚染、農業用肥料の流入など、あらゆる脅威にさらされており、SCTLDに関しても、一日も早い原因の解明が待たれている。

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わずかな異変から始まった

 2014年の夏は、フロリダ州のサンゴにとってとりわけ厳しかった。熱波によって海水温は記録的な高さまで上昇し、広範囲でサンゴの白化現象が起こった。白化は、ストレスを受けたサンゴが、共生する褐虫藻を放出してしまうことによって起こる。回復は可能だが、それによってサンゴの体が弱り、病気にかかりやすくなる。

 プレクト氏は当時、付近で進行していた浚渫工事の影響を調べるため、マイアミ周辺のサンゴ礁に監視ステーションを置いていた。

 10月、同社のダイバーであるライアン・フラ氏が、下水処理場の排水口からそう遠くないサンゴのわずかな異変に気付いた。それから数週間のうちに、その異変は急速に広がっているように見えた。プレクト氏も自分の目で確かめるため、11月上旬に潜ってみた。

 すると、感染は半分以上のサンゴに広がり、中には既に死んでいるサンゴもあった。「自分の目を疑いました。とても気分が悪くなりました」

フロリダ州キーウェスト近くで2019年9月、感染したサンゴの群体に抗生物質の軟膏を塗布する研究者のケビン・マコーレー氏。抗生物質が病気の進行を遅らせるケースもある。(PHOTOGRAPH BY LUCAS JACKSON/REUTERS VIA ALAMY)
フロリダ州キーウェスト近くで2019年9月、感染したサンゴの群体に抗生物質の軟膏を塗布する研究者のケビン・マコーレー氏。抗生物質が病気の進行を遅らせるケースもある。(PHOTOGRAPH BY LUCAS JACKSON/REUTERS VIA ALAMY)

急速な拡大

 他の場所でも同じように、SCTLDは突然発生して壊滅的な被害をもたらしている。2019年10月の時点では、フロリダ州沿岸の海流が北へ向かっていることもあって、南に位置するバハマにはまだ感染が及んでいなかった。

 ペリー海洋科学研究所の海洋生態学者クレイグ・ダールグレン氏らがおよそ100キロにわたってサンゴ礁を調査した結果、病気のサンゴは見つからなかったが、11月に入るとバハマ、フリーポート付近のサンゴが未知の感染症にかかっているという報告が入るようになった。まもなく、これがSCTLDであることが判明した。

とりわけSCTLDにかかりやすいノウサンゴの仲間(Diploria Labyrinthiformis)。(PHOTOGRAPH BY LUCAS JACKSON/REUTERS)
とりわけSCTLDにかかりやすいノウサンゴの仲間(Diploria Labyrinthiformis)。(PHOTOGRAPH BY LUCAS JACKSON/REUTERS)

 翌2020年3月に同じ海域を再調査してみると、全ての場所でSCTLDに感染したサンゴが発見された。それから数カ月のうちに、感染した群体の大部分が死滅した。

 被害に遭ったサンゴの多くは、ピラーコーラルなどサンゴ礁を主に構成するサンゴで、数世紀にわたって生きることがある。(参考記事:「ピラーコーラル、絶滅危惧のサンゴ」

「何百年もかけて成長してきた群体が、たった数週間で一掃されてしまうのです」と、ダルグレン氏は語る。

次ページ:「これは大変な危機です」

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