ビッグジョンの頭骨がトリケラトプスの中で一番大きいことに、「科学的に大きな意味はありません」と語るのは、ビッグジョンの販売促進のためにビノシュ・エ・ジクエロに協力した、ギャラリーオーナーで、自然史関連品の競売に詳しいヤーコポ・ブリアーノ氏だ。「でも、個人収集家に売り込むセールスポイントとしては『最大』であることは大きな魅力です」
化石の価値
ビッグジョンは、これまでに100体以上が発見されているトリケラトプスの化石の一つにすぎず、またトリケラトプスは北米西部のヘルクリーク累層で見つかる恐竜化石で一般的なものだ。(参考記事:「建設現場にトリケラトプスの化石、掘れば他にも?」)
ちなみに米国では、政府の許可を得た研究者だけが広大な連邦政府の土地で化石を探すことができ、見つけた化石は博物館などの施設で公共のものとして扱われなければならないことになっている。一方、ビッグジョンのように私有地で見つかった化石は地主に所有権があり、合法的に売買できる。
言い換えれば、米国はこうした取引が許されている数少ない国なのだ。化石取引については古生物学者の間でもさまざまな意見があり、カナダ、カルガリー大学の古生物学者で、脊椎動物古生物学会(SVP)の会長ジェシカ・セオドア氏は、競売によって化石がコレクター向けの高級品となり、世界的な化石取引のさらなる正当化につながることを懸念している。
「化石を見たい、所有したいという気持ちは理解できます。しかし現実として、化石は無限ではありません。わたしたちは化石からできる限り多くのことを学びたいと考えており、そのためにはだれもが化石を見て、観察することができる博物館に収蔵するのがベストです」
サウスダコタの丘からパリのオークションホールへ
ビッグジョンは、約6600万年前に死亡して古代の氾濫原に埋まり、最終的にサウスダコタ州ラピッドシティの北東約110キロに位置する、個人所有の牧場の地面の下に行き着いた。スタイン氏に偶然発見されるまでは、丘から角を突き出したまま、だれにも邪魔されることなく眠っていた。
スタイン氏らのチームが丘の斜面を掘り進むにつれ、出てくる骨の状態は良好なものになっていった。チームはトリケラトプスが埋まっていた岩層を分析し、丁寧に現場の地図を作り、写真を撮影した。こうした情報は、後の学術的な研究にとっても、商業的な販売にとっても非常に重要となる。「恐竜の骨格の発掘は、決して戦利品ねらいになってはいけないのです」とスタイン氏は言う。
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