世界最大のトリケラトプス化石「ビッグジョン」売却がもたらす波紋

8億円を超える金額で落札された恐竜化石、高額売却の悪しき先例と科学者は懸念

2021.11.11
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「ビッグジョン」の通称で知られるトリケラトプスの化石の競売を監視する競売人のアレクサンドレ・ジクエロ氏。2021年10月21日、ビッグジョンは匿名の米国人に手数料込み770万ドル(約8億7000万円)で売却された。(PHOTOGRAPH BY MICHEL STOUPAK, NURPHOTO VIA GETTY IMAGES)
「ビッグジョン」の通称で知られるトリケラトプスの化石の競売を監視する競売人のアレクサンドレ・ジクエロ氏。2021年10月21日、ビッグジョンは匿名の米国人に手数料込み770万ドル(約8億7000万円)で売却された。(PHOTOGRAPH BY MICHEL STOUPAK, NURPHOTO VIA GETTY IMAGES)
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 2014年、米サウスダコタ州の牧場で、浸食された斜面から転がり落ちたとみられる化石が見つかった。ウォルター・スタイン氏には、それがトリケラトプスの角だとすぐにわかった。風雨にさらされていたものの、かなり大きな個体のものであることが見て取れた。(参考記事:「トリケラトプスのツノは決闘用だった」

 スタイン氏は、化石を発掘して商業的に販売するパレオアドベンチャーズ社の創業者だ。トリケラトプスの化石は、発見場所となった牧場のオーナーの名前をとって「ビッグジョン」と名付けられた。それから6年、スタイン氏は米国内の博物館が購入してくれることを期待して化石を保有していたが、どこからも声はかからなかった。結局2020年、氏はビッグジョンをイタリアの化石修復会社ゾイクに売却。ゾイクは化石を標本化して先日、競売にかけた。

 ビッグジョンは2021年10月、770万ドル(約8億7000万円)という高額で匿名の個人が落札した。このことは大きな話題となり、かねてから続く厄介な論争に拍車をかけることにもなった。

 ビッグジョンのような恐竜の化石が高額で売却される例は初めてではない。2020年にも「スタン」の名で知られる科学的にも重要なティラノサウルス・レックスの骨格が競売にかけられ、匿名の個人によって3180万ドル(現在の日本円で約35億9000万円)で落札されている。(参考記事:「33億円で落札のティラノ全身化石、今後の研究に懸念も」

 ちなみに3180万ドルという売却額は化石に支払われた金額では過去最高だ。科学者らはこうした価格高騰に懸念の声を上げている。これから見つかるかえがえのない化石も個人のコレクションになってしまい、研究の機会が失われるかもしれないからだ。

155センチの頭骨はギネス世界記録

 ビッグジョンの復元された頭骨の長さは155センチと、これまで記録されたトリケラトプスのなかで最大で、ギネス世界記録に認定された。

 21年10月21日、パリのオークションハウス、ビノシュ・エ・ジクエロとオテル・ドゥルオーは、ゾイク社が出品したビッグジョンを競売にかけ、ヨーロッパの競売で化石に支払われた金額としては過去最高額でこれを売却した。この価格はまた、ティラノサウルス・レックス以外の生物化石に支払われた金額でも過去最高だ。

 ビッグジョンについては、頭骨とその他の骨格が一緒に見つかっている点は重要だが、頭骨の75%、骨格全体の60%が揃っているというのはさほど珍しい例ではない。保存状態についても、良好な部位から風化した部位までさまざまだ。

 復元されたビッグジョンはさっそうとした姿をしており、フリルには生前に治癒した興味深い傷が見られる。それでも、「科学的な有用性という意味では、とても限定的です」と、米バッドランズ恐竜博物館の学芸員デンバー・ファウラー氏は述べている。(参考記事:「知っているようでホントは知らない?  「恐竜」って何者?」

【参考ギャラリー】2019年10月号 恐竜化石は誰のもの?(画像クリックでギャラリーページへ)
【参考ギャラリー】2019年10月号 恐竜化石は誰のもの?(画像クリックでギャラリーページへ)
イタリア中部にある私設の展示館に飾られているカアテドクス属の恐竜。(PHOTOGRAPH BY GABRIELE GALIMBERTI AND JURI DE LUCA)

次ページ:化石の価値

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