ポルトガルのいたるところにツバメの飾りがあるのはなぜ?

この国で最も情緒ある記念品の物語

2021.11.12
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ポルトガル、オビドスの家の壁に飾られた黒い陶器のツバメ。ポルトガルではツバメは家族や愛、忠誠の象徴とされている。(Photograph by Zebra0209, Shutterstock)
ポルトガル、オビドスの家の壁に飾られた黒い陶器のツバメ。ポルトガルではツバメは家族や愛、忠誠の象徴とされている。(Photograph by Zebra0209, Shutterstock)
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 アンドレ・アポリナリオ氏が子どもの頃、鳥の巣のことで両親が言い争いをしたことがあった。ポルトガルのガイアにあったアポリナリオ氏の家の正面には、毎年ツバメが巣を作っていた。家の修繕のため、これを取り去らなければならなくなったのだ。巣を撤去したところ、毎年訪れていたツバメは二度と戻ってこなかった。

 現在「テイスト・ポルト」と名づけたグルメツアーを主催しているアポリナリオ氏は、ツバメがもう来ないと気づいた春のことを回想する。

「私が泣きながら『なんで今年はツバメがいないの?』と母に聞くと、母は父に向かって『なぜ巣を壊したのよ?』と叫びました」と氏は語る。「本当に悲しかったです。春はツバメの訪れや子育てと一緒にやって来ると、ずっと思っていましたから」

 ポルトガル語で「アンドリーニャ」と呼ばれるツバメは、ポルトガルのシンボルのひとつになっている。ただ、ひそかに文化と結びついているため、旅行者は気づかないかもしれない。ツバメが好んでポルトガルで過ごすのは、温暖な気候と豊富な食料のためだ。寒くなり始め、昆虫が減ってくると、ツバメは南へと旅立って行く。

ポルトガルのゲレイロで、枝にとまるツバメ。(Photograph by Roger Powell, Nature Picture Library)
ポルトガルのゲレイロで、枝にとまるツバメ。(Photograph by Roger Powell, Nature Picture Library)
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 土産物屋で目立つのはコルクのコースターやポートワインなので、旅行者の多くが素通りしてしまうが、この国で最も情緒ある記念品は陶器のツバメだ。地元の人びとはこの陶製の鳥を、結婚祝いや引っ越し祝い、記念日のプレゼント、餞別などに贈り合う。(参考記事:「太陽とワインの国ポルトガル、みんなが旅する理由」

 2020年2月にアポリナリオ氏と会ったとき、私(筆者のHeather Greenwood Davis氏)の頭の中にあったのは別れのことだった。当時私は、間近に迫りつつあった新型コロナウイルス感染症による混乱やロックダウンのことなど思ってもみず、間もなく高校を卒業し、遠い街の大学に通うために家を離れる一番上の子のことばかり考えていた。

 長男のイーサンと離れることは、それまでにもあった。しかし、キャンプやお泊まり会、修学旅行などではすぐに帰ってくることがわかっていたので、不安はなかった。息子は戻ってくるのだから、と。そして必ず戻ってきた。

 だが今回は少し心配だった。

 この感情が頂点に達していたのが、アポリナリオ氏に案内されてポルトガルの土産物店に入ったときだった。鮮やかな色合いのノート、色とりどりの干しダラの缶詰、昔ながらの天然成分のハンドクリームなどが並ぶ棚をあてもなく見上げていると、たくさんのツバメが目にとまった。

固い絆

「ツバメは、私たちが大切に思う数多くのことと結びつけられています」と、考古学者で、オーダーメードのポルトガル旅行を企画する「ザ・シティ・テーラーズ」の共同創立者のリカルド・ブロシャード氏は説明する。同じ相手と生涯添い遂げ、一緒にヒナを育てるというこの鳥の性質が、ノスタルジーの象徴として最適なのだろう。

「ヒナが全員巣立つまで、ツバメは巣を出ていきません」とブロシャード氏は話す。「そして必ずまた戻ってきます」

参考ギャラリー:世界の美しい鳥たち10 写真32点(画像クリックでギャラリーへ)
参考ギャラリー:世界の美しい鳥たち10 写真32点(画像クリックでギャラリーへ)
鳥 大特集2018のための鳥フォトギャラリー第10弾。この写真はナショナル ジオグラフィック協会の写真コミュニティ「Your Shot」に投稿されたものです。(Photograph By prabhat kumar, National Geographic Your Shot)

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