続々登場? 新型コロナの抗ウイルス飲み薬、今わかっていること

英国が「モルヌピラビル」を承認、「パクスロビド」は重症化リスク89%減の報告

2021.11.09
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抗ウイルス薬がロシアのヒムキにある包装工場のコンベアを流れていく。2020年5月18日。(PHOTOGRAPH BY ANDREY RUDAKOV, BLOOMBERG VIA GETTY IMAGES)
抗ウイルス薬がロシアのヒムキにある包装工場のコンベアを流れていく。2020年5月18日。(PHOTOGRAPH BY ANDREY RUDAKOV, BLOOMBERG VIA GETTY IMAGES)
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 11月4日、英医薬品・医療製品規制庁(MHRA)は米製薬大手メルクなどが開発した新型コロナウイルスの飲み薬「モルヌピラビル」を承認した。

 11月5日、米製薬大手ファイザー社が同じくコロナ飲み薬候補である「パクスロビド」の第2/3相治験の中間解析結果を発表し、発症から5日以内の投与で、重症化リスクのある人の入院または死亡のリスクを89%減らしたと報告した。この結果を受けてファイザーは追加の治験を中止し、米食品医薬品局(FDA)にパクスロビドの緊急承認を申請する予定だ。

 抗ウイルス薬の研究開発には困難がつきまとうものだが、相次ぐニュースや米政府による多額の投資など、その見通しは明るくなりつつある。そこで、新型コロナの抗ウイルス薬について、今わかっていることを紹介しよう。(参考記事:「コロナの飲み薬候補、入院・死亡リスクが大幅減、状況変える?」

抗ウイルス薬を取り巻く現状

 感染も防げるワクチンと異なり、抗ウイルス薬は感染後に病気の進行を遅らせ、最終的には止める役割を担う第2の防御策だ。エイズウイルス(HIV)やC型肝炎、ヘルペスのような、有効なワクチンがないウイルス性疾患に対してはとりわけ重要だ。

 しかし、抗ウイルス薬の開発には多額の費用がかかる。急性呼吸器疾患の場合は、薬を使う期間が短く、開発費を回収できる見込みが薄いせいで特に難しい。そこで新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の場合、研究者たちは既存の薬や、他の病気の治療薬候補として臨床試験(治験)が実施されていた物質を転用した。

「よくあることです」と話すのは、米メリーランド大学ボルチモアカウンティー校の創薬化学者キャサリン・シーリー・ラドケ氏だ。「新しいウイルスが出現したり、古いウイルスが再出現したりするたびに、薬棚にあるものを取り出して、何が効くかを調べるのです」

 今のところ、FDAが新型コロナ治療薬として承認している抗ウイルス薬は、米バイオ製薬ギリアド・サイエンシズがC型肝炎やエボラ熱のために開発した「レムデシビル」だけだ。点滴で投与する必要があるが、新型コロナの治療効果についてはまだ意見が一致していない。

 専門家はモルヌピラビルのような経口薬について、ワクチンと並び、新型コロナのパンデミック(世界的大流行)に対抗する最も有望な手段になると考えている。手頃な価格でさえあれば、個人の選択や物理的・経済的制約のためにワクチンを接種していない人にとって、特に重要なものとなるかもしれない。

「人々は飲み薬には抵抗がありません」とシーリー・ラドケ氏は言う。「飲み薬は蓄えておけますし、特別な保管条件も必要ありません。また、世界中に輸送することもできます」

 バイデン米大統領は2021年6月、新型コロナ向けの抗ウイルス薬の開発に10億ドル(約1130億円)以上を投資すると発表した。また、同計画の一環として、新型コロナウイルスだけでなく新たなパンデミックを引き起こしうる他の新興ウイルスにも対応できる物質を発見すべく、さらに12億ドルの資金提供を約束した。

 抗ウイルス薬の開発について、「ようやく政府や助成機関が真剣に取り組んでくれるようになりました」とシーリー・ラドケ氏は語る。「私たちは、次のパンデミックが起こるのをじっと待っているわけにはいきません。積極的に行動しなければなりません。備えておかなければならないのです」

抗ウイルス薬の種類が多いほどいい理由

 ウイルスは細菌と異なり、自力では繁殖できない。そのため、宿主細胞の仕組みを乗っ取って自分のコピーを大量に作る必要がある。こうして増えた「子孫」が体内に広がり、最終的には別の宿主に感染する。

 抗ウイルス薬の多くは、ウイルスが宿主細胞に付着したり侵入したりするのを防ぐか、あるいは宿主細胞に侵入したウイルスの複製を妨害することで効果を発揮する。

次ページ:ウイルスの変異にも対応する薬を

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