ザトウクジラは大量の糞を排泄する。糞には鉄分が豊富に含まれており、海の栄養循環において重要な役割を果たしている。写真のザトウクジラはカリフォルニア沖の個体。(PHOTOGRAPH BY JOHN DURBAN)
ザトウクジラは大量の糞を排泄する。糞には鉄分が豊富に含まれており、海の栄養循環において重要な役割を果たしている。写真のザトウクジラはカリフォルニア沖の個体。(PHOTOGRAPH BY JOHN DURBAN)
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「ヒゲクジラはいったいどれくらい食べるのだろう?」

 すべてはこの素朴な疑問から始まった。

「ごく基本的な問題なので、30年、40年、50年も前に答えが出ていると思っていましたが、実際には誰も測定したことがなかったのです」と、米スタンフォード大学ホプキンズ海洋基地の博士研究員で、ナショナル ジオグラフィックのエクスプローラーであるマシュー・サボカ氏は語る。

 ヒゲクジラとは、ザトウクジラ、セミクジラ、シロナガスクジラなど、海水からオキアミや動物プランクトンなどの餌をこし取って食べるクジラのグループ。たいていは深さ数百メートルの海中で餌を食べるため、その行動を観察するのは容易ではない。

 また、このような巨大な動物(シロナガスクジラは地球最大の動物であり、体長は30メートルにもなる)を飼育・観察するのも、望ましくないばかりか、不可能だ。さらに、種によっては、1年のうち数カ月間だけ旺盛に食べ、それ以外の時期は絶食するものもあり、摂餌量の追跡はさらに複雑になる。

 そこでサボカ氏らの研究チームは、大西洋、太平洋、南極海のヒゲクジラに最先端の追跡装置を取り付けたほか、ドローンを使ってオキアミの個体密度も測定した。11月3日付けで科学誌「ネイチャー」に発表された研究成果は、驚くべきものだった。ヒゲクジラは、これまでの推定よりもはるかに多くの餌を食べていたのだ。例えば、1頭のシロナガスクジラは、毎日平均16トンの餌を食べていた。これは科学者が考えていた量の約3倍にあたる。

太平洋のトンガ付近を泳ぐザトウクジラ。(PHOTOGRAPH BY GREG LECOEUR, NAT GEO IMAGE COLLECTION)
太平洋のトンガ付近を泳ぐザトウクジラ。(PHOTOGRAPH BY GREG LECOEUR, NAT GEO IMAGE COLLECTION)
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 サボカ氏は、この結果には単なる好奇心の対象にとどまらない、もっと深い意味があると考えている。ヒゲクジラの摂餌量と排泄量は正比例している。そして、クジラの排泄物は、膨大な種類の海洋生物に貴重なエネルギーと栄養分を提供しているからだ。

 英エジンバラ大学の海洋科学者シアン・ヘンリー氏は、「今回の研究は、ヒゲクジラが、生態系の中で、私たちが考えていたよりはるかに重要な役割を果たしていることを示しています」と解説する。既知の14種のヒゲクジラは主に排泄物を介して海中の炭素、窒素、鉄などの重要な栄養素を移動させているからだ。なお、ヘンリー氏は今回の研究に関与していない。

 今回の情報は「海洋、特に南極海の保護と管理を改善する必要があることを示しています」とヘンリー氏は言う。南極沖は人間の活動による影響を特に受けやすい海域である。気候変動や乱獲が栄養分の正常な循環を妨げ、ヒゲクジラの餌となるオキアミに悪影響を及ぼすおそれがあるからだ。数世紀にわたる捕鯨からようやく個体数が回復しつつあるヒゲクジラにとって、オキアミの減少は大きな打撃となる可能性がある。(参考記事:「南極の海の生命を守る、海洋保護区の設立急務の背景にオキアミ漁」

 クジラの個体数が回復し、栄養素を循環させる役割を再び果たせるようになれば、栄養循環がリセットされ、オキアミにもよい影響を与えるはずだと同氏は言う。

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