英国では7月以降、デルタ株の亜系統「AY.4.2」が拡大している。依然として主流は元のデルタ株ではあるものの、現在、2つの新たな変異をもつこの亜系統が新規感染の12%以上を占めている。9月上旬の時点では4%以下だったため、割合は増加傾向だ。
さらに憂慮すべきは、AY.4.2がデルタ株の他の亜系統を着実に打ち負かしている点だ。英保健安全保障庁(UKHSA)が10月22日付けで公表した暫定的な証拠では、AY.4.2はデルタ株の他の亜系統に比べ、家庭内での感染率が約12%高いことが示唆された。
AY.4.2の急激な拡大を受け、英保健安全保障庁(UKHSA)は10月20日、AY.4.2を「調査中の変異株(VUI)」に指定した(編注:日本の国立感染症研究所はWHOにならい「監視下の変異株(VUM)」に分類)。
「英国ではAY.4.2の割合が高まり続けています。これが単なる偶然だったとしたら、増加を続けることなく、いずれ止まるはずでした」と、AY.4.2を発見したスイス、バーゼル大学ビオツェントルム(バイオセンター)の生命情報科学者コーネリウス・レーマー氏は話す。「したがって、実際に感染力が優位にあることが強く示唆されます」
現在のところ、AY.4.2の症例の95%が英国で発生しているが、他の42カ国でも確認されている。米国では、遺伝子配列の全解析例のうちAY.4.2が占める割合は0.5%以下にすぎないとはいえ、すでに33州で確認されている(編注:国立感染症研究所によれば、日本国内では過去に1例が確認されたのみで、10月28日時点においてAY.4.2系統と判定されたウイルスの検出はない)。
「AY.4.2がもつ優位性のせいで、英国はこの冬、少し難しい状況になるかもしれません。私たちが実行するそれぞれの対策の効果が少しずつ低下するためです」と英ウェルカム・サンガー研究所COVID-19ゲノミクス・イニシアチブのディレクター、ジェフリー・バレット氏は話す。「ただし、AY.4.2とデルタ株の違いは、デルタとアルファの差や、アルファとさらに古い変異株の差に比べればわずかです」
科学者はAY.4.2を亜系統と呼んでいる。これはデルタ株でありながら、新たな変異がいくつかあることを意味する。デルタという太い枝から生えた小枝のようなものだ。新型コロナウイルスは月平均約2回の変異を重ねており、デルタ株の亜系統は100を超えている。