英国でデルタ株の亜系統が急拡大、なぜ? 危険度は?

デルタ株より広まりやすいのか、病原性やワクチンの効果は

2021.11.06
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「1カ月ほど前にこの亜系統を見つけたのは、スパイクたんぱく質の変異が2つあったため興味をそそられたからです」とレーマー氏は振り返る。AY.4.2という名前を提案したのもレーマー氏だ。

 ドイツ、ベルリンにあるマックス・プランク感染生物学研究所の分子生物学者エバンス・ロノ氏は「(新型コロナウイルスの)新たな変異は次々と現れており、その大半はウイルスの生物学的挙動に影響を与えません」と話す。ただし、広まりやすい、感染力が強い、治療への抵抗性がある、免疫反応を回避するなど、ウイルスが生き延びやすくなる変異もある。ロノ氏によれば、こうした変異をもつものが亜系統として確立するという。氏はデルタ株の新たな亜系統をカタログ化し、査読前の論文を投稿するサイト「bioRxiv」に10月12日付けで公開した。

AY.4.2は何が違うのか

 新型コロナウイルスのスパイクたんぱく質を含むすべてのたんぱく質は、アミノ酸がネックレスのビーズのようにつながってできている。AY.4.2の特徴は、デルタ株のなかでも特に流行している「AY.4」から、スパイクたんぱく質の145番目と222番目のアミノ酸に新たな変異が起きていることだ。新型コロナウイルスは外側の表面にあるスパイクたんぱく質を使い、肺などの細胞の表面に存在するACE2受容体というたんぱく質に結合することで、ヒトの細胞に感染する。

 AY.4.2の特徴である2つの変異を両方もつものは他のVOCでは見つかっていないが、これらの変異は、問題を引き起こす恐れがある他の変異株では以前から見られる。

 222番目の変異は昨年の10月に最も広がった「B.1.177」変異株でも見られ、「やはり広がりやすさに関して小さな利点があったかもしれません」とベルギー、ルーベン・カトリック大学の進化生物学者で生命統計学者のトム・ウェンセレーアス氏は述べている。

 145番目の変異はミュー株とアルファ株にも見られる。スパイクたんぱく質のこの位置は、多くの抗体が認識し、破壊の標的にする領域内にある。フランス、パスツール研究所のウイルス免疫部門を率いるオリビエ・シュワルツ氏は、AY.4.2はこの変異のおかげで「抗体から逃れることができるか」、あるいはヒトの細胞に入りやすくなるかもしれないと話す。

 これらのシナリオが正しいかどうかはわからない。東京大学のウイルス学者、佐藤佳氏によれば、現在のところ、2つの変異がウイルスの感染力やACE2受容体への結合力に影響することを示唆する研究はないという。

 たとえAY.4.2の適応度がデルタ株より高いとしても、2021年4〜5月にデルタ株がアルファ株より優勢になったとき、あるいはアルファ株が従来株に取って代わったときのような急拡大はまだ見られない。「デルタ株より少し優位に立っているだけです」と英ユニバーシティー・カレッジ・ロンドンの臨床研究部門を率いるクリスティーナ・パゲル氏は話す。

 ウェンセレーアス氏も、アルファ株とデルタ株がそれぞれの祖先より40〜70%伝染しやすかったことに比べれば、AY.4.2の優位性ははるかに小さいと認めている。

次ページ:AY.4.2は脅威となるか

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