100人が怪死、18世紀フランスを恐怖に陥れた謎の「獣」

オオカミ男か殺人鬼か?「ジェヴォーダンの獣」伝説

2021.11.26
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 進展がないことに苛立ったルイ15世は、自身の護衛である歴戦の兵士、フランソワ・アントワーヌを派遣した。1765年9月21日、アントワーヌの部下たちが獣と思われる大きなオオカミを殺した。死体はパリに送られ、アントワーヌは褒賞を与えられた。

 しかし、その2カ月後、襲撃は再開された。1765年12月から1767年6月までの間に30人もの死者が報告された。ジェヴォーダンは再び恐怖に襲われたが、今度は地元の人々が自分たちで対処しなければならなかった。失敗を恥じた当局はほとんど関心を示さず、新聞もすでに興味を失っていた。

 1767年6月19日、地元の猟師ジャン・シャステルが大きな動物を射殺した。それ以来、襲撃は止んだ。目撃者の証言によると、殺された動物はたしかにオオカミだった。ただし、奇妙なオオカミだった。「怪物のような」頭を持ち、猟師たちがそれまで見たことのない、赤、白、灰色の毛並みをしていたという。

獣に対するフランスの国民的な関心は、ルイ15世をも介入させた。(DEA/ALBUM)
獣に対するフランスの国民的な関心は、ルイ15世をも介入させた。(DEA/ALBUM)

諸説あり、真相は謎のまま

 その後の数百年、ジェヴォーダン地方で起きたこれらの恐ろしい死について、さまざまな説明がなされてきた。最も人気のある説の一つは、超自然現象としての「オオカミ男」だ。科学的には否定されているが、シャステルは西洋でオオカミ男を退治できると信じられている「銀の弾丸」で獣を撃ったという噂があったため、この伝説は長く残ることとなった。

 最近では、連続殺人を行っていた殺人鬼が、何らかの動物を使って殺しを働いていたのではないかとの説もある。ただ、専門家の多くは、これはあまりにも突飛だと考えている。(参考記事:「9人が怪死「ディアトロフ峠事件」の真相を科学的に解明か」

1767年に獣を殺したとされるジャン・シャステル。地元の言い伝えによれば、彼は仕留めた獣をパリに持って行ったが、ジェヴォーダン事件への興味を失っていた国王に鼻で笑われたという。実際にあったことなのかは定かでないものの、この逸話は地元の勇敢なヒーローを外部の人間と対立させる物語的構図の一部となった。シャステルの記念碑は、フランスのラ・ベッセール・サン・マリーに建っている。(ALBUM)
1767年に獣を殺したとされるジャン・シャステル。地元の言い伝えによれば、彼は仕留めた獣をパリに持って行ったが、ジェヴォーダン事件への興味を失っていた国王に鼻で笑われたという。実際にあったことなのかは定かでないものの、この逸話は地元の勇敢なヒーローを外部の人間と対立させる物語的構図の一部となった。シャステルの記念碑は、フランスのラ・ベッセール・サン・マリーに建っている。(ALBUM)

 最も支持されているのは、動物界に根拠を置く説だ。ハイエナのように、フランスに生息していない動物がやってきたのではないかと考える人もいる。生物学者のカール=ハンス・ターケ氏は、獣はどこからか逃げてきた若いオスのライオンで、未熟なたてがみがフランスの田舎に住む人々には奇妙に見えたのだろうと主張している。ターケ氏によれば、このライオンはジェヴォーダンに広く撒かれた毒入りの餌を食べて死んだということになる。

 対して、歴史学者のジェイ・M・スミス氏は、もう少し現実的な説を提唱している。ジェヴォーダンの「獣」とは、むしろ複数の大きなオオカミだった可能性が高く、ゆがんだ報道とそれに続く国家的なヒステリーが、ジェヴォーダンの獣とそれに伴う過熱を生み出したという。

18世紀の版画。獣による様々な襲撃が描かれている。(ALAMY/ACI)
18世紀の版画。獣による様々な襲撃が描かれている。(ALAMY/ACI)

 最後の襲撃事件から100年以上が経過した後、ロバート・ルイス・スティーブンソン(後の『宝島』の作者)は、ジェヴォーダンを旅しながら、世界が変わりつつあることへの落胆をこう綴った。「ここは、忘れがたき野獣の地、オオカミの中のナポレオン・ボナパルトの地だった」。しかし鉄道が開通した今、「そう呼ぶにふさわしい冒険には出会えないかもしれない」

 ジェヴォーダンにも現代社会が入り込んだかもしれないが、獣の正体はおそらく未来永劫、解明されないまま、この荒涼とした地に謎めいた空気を漂わせることだろう。(参考記事:「人間の足が続々漂着「セイリッシュ海の謎」、科学で解明」

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文=JUAN JOSÉ SÁNCHEZ ARRESEIGOR/訳=桜木敬子

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