北部のティグライ州で起きている武力衝突では、民間人が残虐行為の標的にされている。この女性は1週間で15人のエリトリア兵にレイプされ、子どもたちは行方不明のままだという。(PHOTOGRAPH BY LYNSEY ADDARIO)
北部のティグライ州で起きている武力衝突では、民間人が残虐行為の標的にされている。この女性は1週間で15人のエリトリア兵にレイプされ、子どもたちは行方不明のままだという。(PHOTOGRAPH BY LYNSEY ADDARIO)
この記事は雑誌ナショナル ジオグラフィック日本版2021年11月号に掲載された特集です。定期購読者の方のみすべてお読みいただけます。

エチオピアで続いている内戦は何百万人という避難民と何千人にものぼる犠牲者を生み、人道的な危機を招いている。このままでは国家の存続も危うい。

 エチオピア北部に位置するティグライ州は包囲されていて、通行できる数本の道の先では陰惨な話を至る所で耳にする。

 同州中部にあるアビ・アディの町外れで、アラヤ・ゲブレテクレが自分の家族に起きた悲劇を話してくれた。彼には6人の息子がいて、2021年2月のある日、そのうちの5人を家族の畑に穀物の収穫に行かせた。そして、家に帰ってきたのは、たった1人だった。

 村にはエチオピア軍の兵士が侵入してきていた。「息子たちはまさか、畑で収穫中に殺されるなんて思ってもいなかったんです」と言って、アラヤは白いハンカチで涙を拭いた。だが、エチオピア兵は容赦なく銃口を向け、女性兵士が「皆殺しにしてしまえ」と命じたという。兄弟は命乞いをした。「私たちはただの農民です。刈り入れと家畜の世話のために1人だけ生かしてください」と懇願したという。こうして15歳の末弟だけ助かり、あとの4人は殺され、彼らの遺体は畑にそのまま置き去りにされた。

 それから3カ月がたっていた。「妻は家にずっと籠もって泣いています」とアラヤは言った。「私も家から出るのは、あの日以来初めてです。毎晩息子たちの夢を見ます」。そう言って彼はまた涙を拭いた。「あの日、長男にも畑に行くように言いましたが、彼は嫌だと言って行きませんでした。無理に行かせなくて良かった」

 州都メケレにあるアイダル病院では、黒焦げになった皮膚の消毒と包帯交換を受ける13歳のケサネト・ゲブレミカエルが泣き叫んでいた。州中部のアフェロム村にある家で炊事していたとき、迫撃砲の攻撃を受けたのだ。「家は焼け落ちました。あの子は中にいたんです」と母親のゲネト・アスメラシュが教えてくれた。ケサネトは全身の40%以上にやけどを負った。

 メケレにある女性保護施設では、2度にわたってレイプされた33歳の女性から話を聞いた。最初はイダガ・ハムスにあった自宅で、次は12歳の息子を連れてメケレに避難しようとしていたときだ。2度目のときは、ミニバスから引きずり出され、軍のキャンプに連行された。そこで木に縛りつけられ、10日間にわたって性的暴行を受けた。彼女は痛みと極度の疲労、トラウマによって、意識がもうろうとしていた。そんななか、忌まわしい光景が目に飛び込んできた。彼女のすぐそばで、息子が死んでいたのだ。「息子の首から血が流れ出ているのが見えたんです。もう死んでいました」と言って、彼女は硬く握った拳を顔に当てたまま、苦悶(くもん)のうめき声を上げて涙を流した。「息子を埋めてあげることもできなかった」。すすり泣きの合間に、彼女は絞り出すように言った。

 エチオピアのアビー・アハメド首相と、ティグライ州の支配政党であるティグライ人民解放戦線(TPLF)の政治的争いは、大量虐殺を伴う内戦へと発展している。ティグライ州では、全住民の3分の1に当たる約200万人が家を追われた。数百万人が緊急の食料援助を必要としていて、死者も数千人にのぼる。しかし、中央政府が通信網を遮断し、同州への往来を制限しているため、どれだけの悲劇が起きているのか、全貌はつかめていない。

ティグライ人民解放戦線(TPLF)の兵士が、虐殺があったとされるアディ・チロ村で警戒に当たる。住民の話では、2021年2月、TPLFとの戦闘に敗れたエチオピア軍とエリトリア軍が、一帯の男性の大半を報復のために殺害したという。犠牲者の多くが自宅近くに掘られた穴に埋められている。(PHOTOGRAPH BY LYNSEY ADDARIO)
ティグライ人民解放戦線(TPLF)の兵士が、虐殺があったとされるアディ・チロ村で警戒に当たる。住民の話では、2021年2月、TPLFとの戦闘に敗れたエチオピア軍とエリトリア軍が、一帯の男性の大半を報復のために殺害したという。犠牲者の多くが自宅近くに掘られた穴に埋められている。(PHOTOGRAPH BY LYNSEY ADDARIO)

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