地球を歩く旅は、困難の多い21世紀を生きる私たちに、何を教えてくれるだろう? 自然環境に大きな負担をかけないこと。持っているものを分かち合うこと。だが何よりも大切なのは、記憶にとどめることだ。
現生人類がアフリカ大陸を出た明確な理由は、誰にもわかっていない。私たちの祖先は24万年ほどの間、アフリカ大陸で暮らしていた。それがあるとき、生まれ故郷を後にして本格的に移動を始め、ついには世界中に拡散していく。
私は人類の祖先の足跡を徒歩でたどりながら、その理由を考え続けている。この「アウト・オブ・エデン・ウォーク」プロジェクトを始めてからもうすぐ9年。東南アジアまでやって来た。最終的には南米大陸の南端まで行く予定だ。私の当初の目的はとてもシンプルだった。人生をゆっくり歩むこと。思考や仕事、生活のペースを落とすことだ。
だが、世界にはそうさせてもらえない問題が山積していた。気候変動に、絶滅していく生き物たち、移住を余儀なくされる人々、反体制派による暴動、新型コロナウイルスの脅威。3000日を超える日々、私は毎朝ブーツのひもを結び、一歩一歩、地球の大きさを確かめるように歩き続けた。だがミャンマーまで来て、初めてクーデターに遭遇することとなる。
2021年2月1日、ビザの手続きのために滞在していたヤンゴンのホテルで、私は心穏やかでなかった。テレビでは、ミャンマー国軍のミン・アウン・フライン総司令官が、民主化運動指導者のアウン・サン・スー・チーと政府関係者を拘束したと発表している。兵士や警察官が外の通りを歩き回っている。やがて彼らはデモ隊を撃ち殺し始めた。真実を語る者たちは危険分子と見なされ、逮捕されたり殺されたりするだろう。私はとっさに、昨日ごみ箱に捨てた残飯を探した。部屋の小型冷蔵庫で何かできないだろうか。ドアのバリケードにしようか? それとも下にいる治安部隊の頭に落としてやろうか?
人類がアフリカ大陸を出た理由には諸説ある。一つは、食料を求めて生まれ故郷のサバンナを後にしたという説。あるいは、まだ中東が緑豊かだった頃、新たな狩り場を探して移動していったという説もある。また、海面の低下によって出現した海岸線に沿って移動したと考える研究者もいる。
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