長い旅が教えてくれたこと

9年目に突入した、太陽が昇る東を目指して3万8500キロ歩き続ける旅

2021.10.29
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エチオピア北部のヘルト・ブーリで、夜空の下に集まったアファール人の遊牧民の子どもたち。2013年1月、サロペックは人類が世界中へ拡散していった足跡を追い、ここから3万8500キロの徒歩の旅に出発した。(PHOTOGRAPH BY JOHN STANMEYER)
エチオピア北部のヘルト・ブーリで、夜空の下に集まったアファール人の遊牧民の子どもたち。2013年1月、サロペックは人類が世界中へ拡散していった足跡を追い、ここから3万8500キロの徒歩の旅に出発した。(PHOTOGRAPH BY JOHN STANMEYER)
この記事は雑誌ナショナル ジオグラフィック日本版2021年11月号に掲載された特集です。定期購読者の方のみすべてお読みいただけます。

地球を歩く旅は、困難の多い21世紀を生きる私たちに、何を教えてくれるだろう? 自然環境に大きな負担をかけないこと。持っているものを分かち合うこと。だが何よりも大切なのは、記憶にとどめることだ。

 現生人類がアフリカ大陸を出た明確な理由は、誰にもわかっていない。私たちの祖先は24万年ほどの間、アフリカ大陸で暮らしていた。それがあるとき、生まれ故郷を後にして本格的に移動を始め、ついには世界中に拡散していく。

 私は人類の祖先の足跡を徒歩でたどりながら、その理由を考え続けている。この「アウト・オブ・エデン・ウォーク」プロジェクトを始めてからもうすぐ9年。東南アジアまでやって来た。最終的には南米大陸の南端まで行く予定だ。私の当初の目的はとてもシンプルだった。人生をゆっくり歩むこと。思考や仕事、生活のペースを落とすことだ。

一歩一歩、世界を踏みしめる
一歩一歩、世界を踏みしめる
ポール・サロペックは、アフリカ大陸から南米大陸の最南端に至る人類の拡散ルートを徒歩でたどっている。2013年に出発してから、これまでに約1万8000キロを踏破した。これから中国の中央部を通り、シベリアに向かって旅を続ける予定だ。(CHRISTINE FELLENZ, NGM STAFF. 出典: JEFF BLOSSOM, CENTER FOR GEOGRAPHIC ANALYSIS, HARVARD UNIVERSITY)

 だが、世界にはそうさせてもらえない問題が山積していた。気候変動に、絶滅していく生き物たち、移住を余儀なくされる人々、反体制派による暴動、新型コロナウイルスの脅威。3000日を超える日々、私は毎朝ブーツのひもを結び、一歩一歩、地球の大きさを確かめるように歩き続けた。だがミャンマーまで来て、初めてクーデターに遭遇することとなる。

 2021年2月1日、ビザの手続きのために滞在していたヤンゴンのホテルで、私は心穏やかでなかった。テレビでは、ミャンマー国軍のミン・アウン・フライン総司令官が、民主化運動指導者のアウン・サン・スー・チーと政府関係者を拘束したと発表している。兵士や警察官が外の通りを歩き回っている。やがて彼らはデモ隊を撃ち殺し始めた。真実を語る者たちは危険分子と見なされ、逮捕されたり殺されたりするだろう。私はとっさに、昨日ごみ箱に捨てた残飯を探した。部屋の小型冷蔵庫で何かできないだろうか。ドアのバリケードにしようか? それとも下にいる治安部隊の頭に落としてやろうか?

ジャーナリストのポール・サロペックがミャンマーにいたとき、民主化を求める抗議デモが激しくなった。2021年2月に国軍が権力を掌握して以来、大勢の人が殺害され、拘束されたり拷問されたりしている。(PHOTOGRAPH BY PANOS PICTURES/M.O.)
ジャーナリストのポール・サロペックがミャンマーにいたとき、民主化を求める抗議デモが激しくなった。2021年2月に国軍が権力を掌握して以来、大勢の人が殺害され、拘束されたり拷問されたりしている。(PHOTOGRAPH BY PANOS PICTURES/M.O.)

 人類がアフリカ大陸を出た理由には諸説ある。一つは、食料を求めて生まれ故郷のサバンナを後にしたという説。あるいは、まだ中東が緑豊かだった頃、新たな狩り場を探して移動していったという説もある。また、海面の低下によって出現した海岸線に沿って移動したと考える研究者もいる。

次ページ:言葉のやり取りが消えたヤンゴン

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