アルコール業界の革新者たちが、ビールやワイン、蒸留酒の製造が環境に与える負荷を減らすアイデアを実現させようとしている。(Photograph by Tom Weller, picture alliance/Getty Images)
アルコール業界の革新者たちが、ビールやワイン、蒸留酒の製造が環境に与える負荷を減らすアイデアを実現させようとしている。(Photograph by Tom Weller, picture alliance/Getty Images)
[画像をタップでギャラリー表示]

 アルコール飲料の製造は、最初から最後まで環境に多くの負担をかける。オランダの非営利組織「ウォーターフットプリントネットワーク(WFN)」によると、小ジョッキ1杯(約230ml)のビールを造るのに必要な水は約75リットル、グラス1杯(約150ml)のワインを造るのに必要な水は約113リットルだ。メキシコのテキーラやスコットランドのスコッチウイスキーのように、限られた場所でしか造られていないものは、長距離輸送になりやすい。

 ブドウ、小麦、大麦、ホップ、砂糖など、アルコールの製造に使われる原料は、大量の水とエネルギーを消費し、醸造にも多大なエネルギーが使われる。アルコール飲料産業による二酸化炭素排出量の具体的な見積もりはない。しかし米国の学術機関「全米アカデミーズ」は、広い意味での食品飲料産業について、世界で最も持続不可能な産業の一つであり、世界で失われる生物多様性の60%、二酸化炭素排出による気候変動の30%の原因だと推定している。

 気候変動の深刻さが増し、農業から輸送までアルコール製造に関連するあらゆるところに影響が及んでいる。そんななか長年、環境に負荷をかけるやり方で造られてきた生ビールを、私たちはもう飲むべきではないのだろうか? いや、そうとは限らない。アルコール飲料業界の環境負荷を削減するイノベーションと技術が生まれ、一方では大手メーカーが持続可能な生産にするために対策を講じている。実例を紹介しよう。

「濃縮還元ビール」で輸送負荷を減らす

 2010年に米ユタ州のキャニオンランズ国立公園でハイキングをしていたパトリック・タテラ氏は、山頂に着いたときビールがたまらなく飲みたくなった。化学工業と数学の知識があり、またビールの95%が水であることを知っていたタテラ氏は、ビールを持ち運びしやすいように乾燥させて、飲むときに水で戻せないかと考え始めた。

 実験を開始したタテラ氏は、これを大規模に実現する技術ができれば、非効率的な流通システムに悩まされていたビール業界全体に役立つことに気付いたと、タテラ氏がその後設立したサステナブル・ビバレッジ・テクノロジーズ社(SBT)のCEO、ゲイリー・ティクル氏は話す。

 ビールに関連する二酸化炭素排出量の20%が、国際輸送のために生じるとされている。ビールやワインなどのアルコール飲料の出荷には、劣化を防ぐため、通常は温度と湿度が調節された輸送機関が使われる。「現在の科学技術の下、この過程では国中あるいは世界中で、大量のステンレスと水と空気が運ばれています」とティクル氏は言う。

次ページ:ホップいらずのビール酵母

会員向け記事を春の登録キャンペーンで開放中です。会員登録(無料で、最新記事などメールでお届けします。

会員登録(無料)のメリット

  • 1ナショジオ日本版Webの
    無料会員向け記事が読める
  • 2美しい写真と記事を
    メールマガジンでお届け

おすすめ関連書籍

酒と人類

9000年の恋物語

雑誌「ナショナル ジオグラフィック日本版」の好評記事をデジタル化。古今東西で愛された酒の歴史を振り返りながら、酒と人類の物語をひも解く。

価格:330円(税込)

おすすめ関連書籍

ナショジオと考える 地球と食の未来

ナショナル ジオグラフィックが2014年から展開してきたシリーズ「90億人の食」で、大きな反響のあった特集5本をまとめて1冊に。※本誌に掲載した記事を再編集したものです。

定価:1,100円(税込)