タテラ氏は、「BrewVo」と呼ばれる、従来のビールの6分の1の重量と体積で輸送できる高濃度のビールを造る方法を開発した。その製法は伝統的な醸造法とほぼ同じだが、醸造サイクルを何度も繰り返すところが異なる。
各サイクルの最終生成物は、BrewVoユニットで水とアルコールを分離してから次に送られる。「そのほかすべての、一般にビールの中核を成している良い部分」、たとえばホップと穀物から生まれる風味などは、缶、ビン、樽などではなくビニール袋に入れて出荷されるとティクル氏は説明する。
各地のビール醸造所やバーに届いたところで、濃縮ビール1に対して水6の割合で混ぜ、アルコールを加えて(または加えないこともできる)、炭酸ガスで発泡させる。これでビールとして販売できるようになる。BrewVoで造られたビールは、米コロラド州デンバーの数件のバーで飲むことができる。SBTは現在南米でバーを開店する準備を進めているほか、間もなくコロラド州の醸造会社スリーピング・ジャイアントとの提携により生産規模を拡大する予定だ。
ホップいらずのビール酵母
また別の持続可能な解決策も2013年に生まれている。チャールズ・デンビー氏は、米カリフォルニア大学バークレー校で博士研究員として、遺伝子組み換え技術を使って酵母からバイオ燃料を造る研究をしていた。空き時間にビールの醸造をしていて、あることに気付いた。
製造コストのうち最も高いのが、ビールの特徴的な香りと味わいを生み出すホップだった。製造法によって異なるが、1ポンド(454グラム)のホップから造れるビールは約38リットルから95リットルで、それが15ドル(約1700円)もした。
ホップは栽培に大量の水を必要とすることも知った。米国最大のホップ栽培地であるワシントン州とオレゴン州の調査によれば、1ポンドのホップを育てるのに、気候や土壌の状態によって1135リットルから1700リットルもの水が必要になる。デンビー氏は、自身の専門である酵母遺伝学と合成生物学を、ビールの醸造に応用することにした。
「酵母が代わりに使えれば、栽培にかかる水も費用も節約できる」とデンビー氏は考えた。
デンビー氏はバークレー校の同僚のレイチェル・リー氏と共に、ホップに含まれ、その特有の風味のもとになっている化合物「テルペン」を生み出す酵母株をつくる遺伝子組み換えの研究に取り掛かった。2018年に、デンビー氏とリー氏はその成功を学術誌「Nature Communications」で発表した。実際に2人が開発した酵母株を使って醸造したビールは、従来のビールよりホップらしい味がするとの結果が得られたという。
その後2人はバークレー・イースト社を設立した。しかし、かくも有望で革新的な技術だったにもかかわらず、このホップの代替品はすぐには業界に受け入れられなかったとデンビー氏は話す。
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