ジャガーの毒殺が横行か、ブラジルで事件発覚、初の捜査へ

ウシを殺された牧場主が報復の可能性、禁止農薬使用の疑いも

2021.10.19
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 皆がそのように考えるわけではない。サンドロたちが発見された自然のままの放牧地は、ウシで埋め尽くされる前、観光地として注目されていた。ミランダ川のほとりにあるこの土地には、他の場所よりも多くのジャガーが集まり、野生のジャガーを一目見ようと世界中から人がやってきた。

 野生生物のツアーガイドであるジャン・ペラルタ氏は、現在のオーナーが購入する前の2012年から2019年まで、この牧場を借りていた。その頃はビジネスが好調だったという。毎日、2、3頭のジャガーを見ることができた。時には、仲間を探すジャガーの鳴き声を真似た楽器を使って、彼らを誘い出すこともあったが、楽器が必要ない時も多かった。川岸で休んでいる姿がすぐに見つかるからだ。

 彼が異変に気づいたのは昨年のことだった。

「いつもジャガーが横切る道路に、ジャガーの足跡が見られなくなったんです」

 今でも彼は、移動にミランダ川を使いこの近くで仕事を続けている。だが、1日に1頭でもジャガーに遭遇すればラッキーだという。1頭も見ないまま数日が経過することも多い。

パンタナールのポルト・ジョフレ地区。負傷したジャガーから数mのところで水を飲むウシたち。ジャガーの生息地にウシの放牧地が広がり、捕食者と被食者の距離がますます縮まっている。 (PHOTOGRAPH BY PHOTO BY MAURO PIMENTEL/AFP, GETTY IMAGES)
パンタナールのポルト・ジョフレ地区。負傷したジャガーから数mのところで水を飲むウシたち。ジャガーの生息地にウシの放牧地が広がり、捕食者と被食者の距離がますます縮まっている。 (PHOTOGRAPH BY PHOTO BY MAURO PIMENTEL/AFP, GETTY IMAGES)
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 2019年にこの土地を離れる時、ペラルタ氏は旧所有者に「家畜用に使う人に売ったり貸したりしないように」と忠告したが、聞き入れられなかった。死んだジャガーの話を聞いてすぐに、あの土地で殺されたのだと彼は確信したという。

 この件がニュースになると、噂が広まった。サンドロが発見された土地で、さらに9頭のジャガーの死体を見た、いや7頭だったという住民や牧場主があらわれた。

 しかし、連邦警察が牧場の家宅捜索を行ったのは、ジャガーが発見されてから既に2カ月近く経った、8月5日のことだ。捜査を担当したクラウディネイ・サンティン氏によれば、この事件は世間に広く知られていたため、土地の所有者や従業員は警察が来ることを知っていたはずだという。

 敷地内で他の動物が死んでいた形跡はなく、カルボフラン入りの農薬の存在を証明するものもなかった。サンティン氏が主な容疑者だという牧場の管理者と賃借人からは、携帯電話が押収されている。

 カンポ・グランデにある容疑者の自宅を捜索しても、やはり何も出なかった。また、2人の従業員の部屋は捜索できなかった。彼らは既に、パンタナールでも奥まった地域にある別の農場で働いており、警察の捜査は難航している。

パンタナールのクイアバ川のほとりに横たわるジャガー。ジャガーは、家畜の所有者による報復的な殺害に加え、生息地の減少や分断化、野生動物の違法取引のための密猟などの脅威にさらされている。 (PHOTOGRAPH BY PHOTO BY BUDA MENDES/GETTY IMAGES)
パンタナールのクイアバ川のほとりに横たわるジャガー。ジャガーは、家畜の所有者による報復的な殺害に加え、生息地の減少や分断化、野生動物の違法取引のための密猟などの脅威にさらされている。 (PHOTOGRAPH BY PHOTO BY BUDA MENDES/GETTY IMAGES)
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 現在、ジャガーの組織サンプルは分析中だが、連邦警察によれば、発見時の腐敗の程度からすると、カルボフランが検出される可能性は低いという。ただ、毒殺されたことは連邦警察も確信している。

 声明によれば、「ウシの死骸に昆虫の死骸が付着していたことと、小さい動物ほどウシの近くで死んでいた動物の死骸の分布状況から、連邦警察鑑識チームは、2頭のジャガーはウシの死骸に付着した毒で死んだと結論づけた」とのことだ。

 また、ジャガーの毒殺事件が正式に捜査されるのは今回が初めてでも、サンティン氏によれば、現在、「パンタナール南部の他の牧場で、同様の事件が発生しているとの情報を得ている」と言う。

 絶滅を危惧されている動物を殺すことと、禁止されている有害物質を輸入して使用することは、合わせて5年以下の懲役刑になる。

「この種の事件の捜査で最も困難なのは、距離、広さ、孤立具合、この辺りの牧場へのアクセスの難しさに関連しています」とサンティン氏は言う。「今回の事件でも、GPS付きの首輪でモニタリングされていた1頭のジャガーがいなければ、毒殺は発見できませんでした」

 ハイゼル氏を含め、首輪の利点は犯罪捜査だけではないと考える人もいる。抑止力だ。法的措置を恐れた牧場主が、そもそも野生動物を毒殺しないようになるかもしれない。

ギャラリー:ジャガーがワニをとらえた決定的瞬間、15秒の早業(写真クリックでギャラリーページへ)
ギャラリー:ジャガーがワニをとらえた決定的瞬間、15秒の早業(写真クリックでギャラリーページへ)
スカーフェイスという名のオスのジャガーがワニに襲い掛かり、一気に仕留めた瞬間。ブラジル、マットグロッソ州のパンタナール川で。(PHOTOGRAPH BY STEVE WINTER, NATIONAL GEOGRAPHIC)

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文=JILL LANGLOIS/訳=桜木敬子

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