南米原産のげっ歯類チンチラは人とよく似た聴覚を持ち、研究に役立つ存在だが、研究用に飼育している施設はほとんどない。知られている限り米国で唯一の飼育施設が免許を取り消され、チンチラを使った聴覚研究の将来が疑問視されている。(PHOTOGRAPH BY DAN BURTON / NPL / MINDEN PICTURES)
南米原産のげっ歯類チンチラは人とよく似た聴覚を持ち、研究に役立つ存在だが、研究用に飼育している施設はほとんどない。知られている限り米国で唯一の飼育施設が免許を取り消され、チンチラを使った聴覚研究の将来が疑問視されている。(PHOTOGRAPH BY DAN BURTON / NPL / MINDEN PICTURES)
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 フィリップ・ジョリス氏はチンチラを必要としていた。南米原産のげっ歯類で、ベルギーに拠点を置く聴覚研究者のジョリス氏は6年前、人間とよく似たその聴覚能力を研究したいと考えた。

 しかし、驚いたことに、ヨーロッパで研究用のチンチラを飼育している人を見つけることができなかった。ペット用のチンチラを飼育している人はいたが、近親交配や遺伝子変異の可能性があり、研究には適さない。

 ジョリス氏はすぐに調査範囲を広げ、ヨーロッパと米国の同僚たちに助けを求めた。すると、米国ミネソタ州の農村にあるモールトン・チンチラ・ランチを勧められた。研究用のチンチラを飼育する唯一の施設のようだった。オーナーのダニエル・モールトン氏はとても対応が良かったとジョリス氏は振り返る。「彼はとても感じが良く、動物たちのことをとても気遣っていました。海を越えて輸送することは決して容易なことではありません」

 モールトン氏は2015年から2016年にかけて3回にわたり、ルーベン・カトリック大学のジョリス氏の研究室にチンチラを送った。合わせて30匹だったが、いずれも輸送の悪影響や基礎疾患は見られなかったとジョリス氏は話す。「彼らは皆、元気な状態で到着しました」

 しかし、ジョリス氏も知らなかったことがある。ジョリス氏がモールトン氏と連絡を取り合っていた間、モールトン氏の施設は何度も動物福祉法違反を指摘されていた。

 現在約750匹のチンチラを飼育しているモールトン・チンチラ・ランチは2013年から2018年にかけて、100件超の動物福祉法違反を積み重ねていた。米国の動物福祉法は研究に使ったり、動物園などで展示したり、繁殖したりする動物を守るための法律だ。

 米国には農務省(USDA)の認可を受けたチンチラ販売業者が85社あるが、研究用のチンチラを積極的に飼育しているのはモールトン・チンチラ・ランチだけだ。

 10月8日に終了したUSDAの行政審判で、ジル・クリフトン判事はモールトン氏のチンチラ飼育免許を取り消し、1万8000ドルの罰金を科すという判決を言い渡した。モールトン・チンチラ・ランチの動物福祉法違反は動物の健康、衛生、安全に関する慢性的な問題の一部にすぎないとクリフトン判事は述べた。

「あなたは免許にふさわしくありません」と判事は言い、今回の判決によって、モールトン氏は動物福祉法に基づく飼育免許の再申請を永久に禁止されたと補足した。「あなたがなぜ動物福祉法の要件を理解できなかったのか私にはわかりません。何より無関心が原因だと思います」

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