コロナで糖尿病を発症、米で年10万人、膵臓に深刻な被害の恐れも

糖尿病とウイルス感染の関係、長年の謎の解明につながるか

2021.10.13
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健康への長期的な影響は

 新型コロナ感染症からの回復後、膵臓が長期的にどのような運命をたどるのかを完全に理解するには、もっと多くの時間が必要だ。しかしフィオリーナ氏が5月に発表した研究は、新たに高血糖症になった人の3人に1人では、少なくとも6カ月間はその状態が維持されていることを示している。

 ジャクソン氏によると、これは年間の糖尿病予想発症数をはるかに上回っており、またその数は「氷山の一角に過ぎない」という。

「危機感を煽りたいわけではありませんが、今後予想以上に膵臓への長期的な影響が出てくるかもしれません」とジャクソン氏は言う。新型コロナ感染症感染から数カ月がたった時点で糖尿病を発症していなくとも、将来的にはそうなる可能性があると氏は指摘する。

 糖尿病のような、血糖値を注意深く監視し、定期的にインスリンを注射しなければならない慢性疾患を発症するだけでも厄介だが、新型コロナウイルスが膵臓をひそかに傷つけて健康に害を及ぼす可能性もある。

 ジャクソン氏はこれを火事になった家にたとえて、燃え上がる家具にばかり注目していると、煙や熱が家の構造に与えているダメージに気づかないことがあると述べている。ウイルスは膵臓の組織に傷をつけ、それによって膵炎(膵臓の慢性的な炎症)などの合併症や、膵臓がんすら起こりやすくなるかもしれない。

「火事にあった家の壁が、すぐにでも新しいしっくいを塗れるようなきれいな状態ではないのと同じです。臓器の構造は傷つき、問題を抱えています。でこぼこの壁から始めるのですから、修復は難しくなります」

 膵臓へのダメージはまた、糖尿病による長期的な合併症が起こりやすい胆管や腎臓など、周辺にも影響を及ぼす可能性がある。米メイヨークリニックによると、糖尿病患者の約4人に1人は、血液中の老廃物をろ過する血管の損傷により、最終的に腎臓病を発症するという。

 しかし、一般の人々がそうした合併症についてどの程度懸念する必要があるかについては、まだ議論が続いている。

ウイルスは糖尿病の原因なのか、分かれる見解

 膵臓と新型コロナ感染症の関係について、科学者たちは2つの陣営に分かれている。ワイン氏は、この病気がほんとうに糖尿病を引き起こすかどうかは疑わしいと考える側にいる。

 その理由は、実際に多くの人たちが、新型コロナ感染症の急性期後に回復しているからだ。ワイン氏がウェクスナー医療センターで診た患者の多くは、退院後間もなくインスリンの投与をやめることができた。ワイン氏はまた、同院ではパンデミックの最中に、主に自己免疫反応がベータ細胞を攻撃して起こる1型糖尿病の新規診断数は増えておらず、ベータ細胞が大量に死滅したという証拠も観察されていないと述べている。

「ほんとうに明らかにすべき問題は、炎症反応が収まり、ステロイド剤を使わなくなったときに、何が起こるのかということでしょう」とワイン氏は言う。「糖尿病が継続するなら、もしかするとその人はいずれにしろ糖尿病になる一歩手前だったのかもしれません」

 感染後に糖尿病を発症する人は、もともとそうなるリスクを持っており、新型コロナ感染症によって体にかかった負担によって単にそれが加速されたのだろうと、ワイン氏は言う。それが慢性的な糖尿病になる場合もあれば、一時的なもので収まることもある。たとえばそれは、妊娠中に発症して産後に治る妊娠糖尿病のようなものだ。

 パンデミックが糖尿病と診断される割合に影響を与えたかどうかについて、科学者が人口データから判断できるようになるには何十年もかかるだろうと、ワイン氏は指摘する。

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