コロナで糖尿病を発症、米で年10万人、膵臓に深刻な被害の恐れも

糖尿病とウイルス感染の関係、長年の謎の解明につながるか

2021.10.13
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膵臓に感染する新型コロナウイルス

 まずは、消化器系において重要な役割を果たしている膵臓についておさらいしておこう。膵臓は胃の後ろにあり、小腸につながっていて、消化しきれていない食べ物をさらに分解するためのさまざまな液体を分泌する。

 食物の多くは分解されて糖になり、血液中に放出される。膵臓はその血糖のレベルを調整する役割を担っており、血糖値を下げるインスリン、血糖値を上げるグルカゴンというホルモンを分泌する。しかし、この血糖値のバランスがきちんと調整されずに高血糖状態が続くと、臓器は機能不全に陥り、網膜、腎臓、神経、心臓、血管などの恒久的な損傷につながる。

 パンデミック初期に大量の感染者を出したイタリアでは、新型コロナ感染症で入院した人たちの血糖値が異常に高いことが明らかになった。ミラノにある病院の内分泌科の責任者を務めていたフィオリーナ氏がこの現象に注目したのは、2020年4月のことだ。当時、市内では日々2万人の新規感染者が発生し、葬儀が絶え間なく行われていた。

 ある日、フィオリーナ氏は、亡くなった患者の多くが高血糖なのは奇妙だという病理医の発言を耳にした。この事実は、多くの患者で膵臓がきちんと機能していないことを示している。そのとき「糖尿病の人たちの死亡リスクが高いことは確かだが、もしかしたらほかにも何かあるのかもしれない」と、フィオリーナ氏は言ったという。

 フィオリーナ氏は詳しい調査を行うことを決めた。2021年5月、氏は糖尿病の既往歴のない患者551人のうち、46%が新たに高血糖症を発症したという研究結果を学術誌「nature metabolism」に5月25日付けで発表した。新型コロナ感染症は、これらの患者のホルモン分泌を完全に阻害していた。感染前には正常だったにもかかわらず、インスリンの作用が低下したことで、彼らの血糖値は危険なほど高くなっていた。

 同じころ、新型コロナ感染症で死亡した患者の検死解剖でも、ウイルスが膵臓に感染していたことが確認され、先に述べたように一連の論文が「Cell Metabolism」誌に発表された。同チームに参加していたジャクソン氏は、新型コロナウイルスはインスリンを産生するベータ細胞に感染して殺すことを発見した。ベータ細胞は容易には補充されず、失うと糖尿病にかかりやすくなると考えられている。

 この時点では、ウイルスがどのように膵臓に到達して細胞を殺すのかについては明らかになっていなかった。フィオリーナ氏によると、まだ発表されていない氏の最新の研究では、この疑問に答えることを目指しているという。フィオリーナ氏のデータは、新型コロナウイルスが膵臓のリンパ節で検出されることを示しており、ウイルスが直接リンパ系や血流を介して到達している可能性を示唆している。

 もしこれが確認されれば、ウイルスは膵臓に直接感染することになる。しかしその一方で、新型コロナウイルスは間接的な方法でも膵臓に害を及ぼしていると、フィオリーナ氏は言う。

 新型コロナ感染症に対する防御を開始した免疫系は、ときに過剰に反応して無差別攻撃を行い、全身に炎症を引き起こす場合がある。これが膵臓に負担をかけ、血糖値を上昇させる。さらには、その炎症反応を抑えるステロイド剤が事態を悪化させることもある。

 米オハイオ州立大学ウェクスナー医療センターのキャスリーン・ワイン氏によると、ホルモン分泌が正常で糖尿病のリスク因子を持たない人たちであれば、ステロイド剤を使っても問題はない。しかし、すでに糖尿病にかかりやすい状態にある人たちの場合、ステロイド剤が体にインスリンを大量に作らせるせいで、細胞がインスリンに反応しにくくなり、結果的に血糖値を上昇させてしまうことがあるという。

次ページ:ウイルスは糖尿病の原因なのか、分かれる見解

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