エリザベス1世顧問の「魔法の鏡」はアステカ産と判明

メキシコ中部の黒曜石、鏡の魔力を信じていたアステカ人

2021.10.12
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アステカと鏡

 両地域を支配していたアステカ人には、黒曜石を使って呪術用の鏡を作る伝統があったと、英マンチェスター大学の考古学者で論文の筆頭著者であるスチュアート・キャンベル氏は説明する。

 円形の黒曜石の鏡に関する記述は、16世紀初めにスペインに征服された直後に書かれたアステカの写本や、予言の力を持つというアステカ神話の神「テスカトリポカ」の描写にも見られる。テスカトリポカの名は「煙を吐く鏡」という意味だ。アステカ人は、鏡には煙が映り、それが晴れると遠くの時間や場所が見えると信じていた。

この16世紀の「テペトラオストク写本」のように、アステカの写本には黒曜石の鏡が描かれたものがある。古代メソアメリカの人びとは、鏡が霊界への入口になると信じていた。(COURTESY THE TRUSTEES OF THE BRITISH MUSEUM)
この16世紀の「テペトラオストク写本」のように、アステカの写本には黒曜石の鏡が描かれたものがある。古代メソアメリカの人びとは、鏡が霊界への入口になると信じていた。(COURTESY THE TRUSTEES OF THE BRITISH MUSEUM)
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 古代メソアメリカでは、鏡は異世界につながる霊の通り道になると信じられていた。「『鏡の国のアリス』そっくりです」と、米カリフォルニア大学リバーサイド校の人類学者カール・タウベ氏は電子メールに書いている。「奥深くをのぞき込むと、そこに通路が口を開けているのです」。なお、タウベ氏はアステカの鏡について研究しているが、今回の調査には参加していない。(参考記事:「帝国滅亡から500年、アステカ人とは何者だったのか?」

 大英博物館の「霊視鏡」がアステカ起源と判明したことで、ディーがこれを天使や霊を呼び出す道具として使ったとの説が強固になったとキャンベル氏は述べる。ディーが鏡を手に入れたのは16世紀後半にヨーロッパ中を旅したときではないかと考えられているが、新世界の探検に強い関心を抱いていたディーは、鏡が持つという魔術的な性質について知っていた可能性がある。

 1521年にスペインのエルナン・コルテスの軍がアステカ王国の首都テノチティトランを占領してすぐに、アステカの鏡数点がメキシコからヨーロッパに送られたとの記録もある。また、アステカ人と同様に、当時のヨーロッパ人も鏡には魔法の力があると信じていた。ディーがこの「霊視鏡」を通じて天使と会話しようとしたのもそのためかもしれない。

 エリザベス1世時代の先駆的な科学者というディーの名声は、英国に今も根強く残っている。例えば英国のロックバンド「ブラー」のフロントマン、デーモン・アルバーン氏は、ディーを題材にしたオペラを作曲した。またディーは、当時からさまざまな歴史的資料に幾度となく姿を現している。

「文献を読んでいると、思いもよらないところでジョン・ディーの名前に出くわします」とキャンベル氏は言う。「ディーは非常に多くの分野に取り組み、自然界へのさまざまなアプローチで先駆者となりました」

文=TOM METCALFE/訳=山内百合子

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