英女王エリザベス1世の政治顧問として有名なジョン・ディーが使用したとされる「霊視鏡」は、約500年前にメキシコのアステカで作られたものであることが、新たな研究で判明した。論文は10月7日付けで考古学誌「Antiquity」に発表された。
以前から、「霊視鏡」は神秘主義者のディーが天使との会話を試みるために使っていたものではないかと考えられていたが、この説が補強されることになった。
ディーは16世紀に即位したエリザベス1世の顧問を務めたほか、錬金術師、占星術師、地図製作者、数学者としても知られていた。シェイクスピアの戯曲『テンペスト』の主人公である魔術師プロスペローは、ディーがモデルではないかと考えられている。
ディーは数多くの神秘的な行為を実践したと伝えられている。水晶玉や鏡といった透視の道具を使い、天使や霊を呼び出す「スクライング」もそのひとつだ。今回分析された「霊視鏡」は、ディーのスクライングの道具だったことが1650年代に証明されている。1770年頃までにこの鏡を手に入れた小説家、政治家、古物収集家のホレス・ウォルポールは、この英国ルネサンス期の博識家ディーが呪術に使用したものだと信じていた。
その後、1966年に大英博物館が購入し、現在は同館の「啓蒙時代ギャラリー」に展示されている。
研究者らは、携帯型の蛍光X線分析装置を使用して、ジョン・ディーの鏡のほか、黒曜石でできた遺物3点も分析した。2つはディーの鏡に非常によく似た円形の鏡で、これらをメキシコで入手した別々の収集家から大英博物館がそれぞれ1825年と1907年に購入したもの。もう1つは磨かれた長方形の石版で、大英博物館が1926年に購入したものだ。
蛍光X線分析装置は、試料にX線を照射すると、含まれる元素ごとに異なる光を放つことを利用している。今回は、それぞれの黒曜石に含まれるチタン、鉄、ストロンチウムその他の元素の比率を測定することで、地質学的な由来を特定した。
分析の結果、ジョン・ディーの鏡と、他の円形の鏡の1つは、間違いなくメキシコ中部のパチューカ産の黒曜石でできていることが示された。もう1つの鏡と、持ち運び式の祭壇だったと考えられる石版は、さらに240キロほど西のウカレオ産の黒曜石でできていた。