マラリアワクチンをWHOが初推奨、「歴史的な日」と述べた背景

世界で毎年40万人以上が死亡、なぜもっと早く作らなかったのか?

2021.10.12
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2019年9月13日、ケニア西部ホマベイ郡の湖畔の町ンディワで、マラリアワクチン接種の準備をする保健員。(PHOTOGRAPH BY BRIAN ONGORO, AFP VIA GETTY IMAGES)
2019年9月13日、ケニア西部ホマベイ郡の湖畔の町ンディワで、マラリアワクチン接種の準備をする保健員。(PHOTOGRAPH BY BRIAN ONGORO, AFP VIA GETTY IMAGES)
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 世界では現在、1秒間に7人がマラリアに感染し、2分間に1人のペースで5歳未満の幼児が命を落としている。そんな現状に心を痛めてきた公衆衛生の専門家たちは、世界保健機関(WHO)が10月6日に世界初のマラリアワクチン「RTS,S/AS01(モスキリックス)」の推奨に踏み切ったことを大いに喜んでいる。

 長年にわたる臨床試験(治験)の結果、RTS,Sが安全であり、他のマラリア対策と併用すれば特に予防に役立つことが確認された。RTS,Sの12カ月間の効果は56%であり、他の病気に対する最新のワクチンほど驚異的ではない。しかし、このワクチンの標的である熱帯熱マラリア原虫(Plasmodium falciparum)が、ウイルスに比べて桁違いに複雑であることを思えば無理もない。(参考記事:「苦戦するマラリアワクチン、根絶への道のり遠く」

「マラリア対策には、蚊帳、殺虫剤の散布、(抗マラリア薬の)予防投薬などの様々なツールがあり、すべてが併用されています」と米ワシントン大学のマラリアワクチン開発者ショーン・マーフィー氏は言う。「今回のワクチンは、これらに取って代わるものではありません」

 また、今回の推奨によって直ちにRTS,Sの大規模接種が始まるわけでもない。WHOの支援を受けて、今よりも広い地域でワクチンの接種が始まり、アフリカ諸国が独自にワクチンを承認する道が開かれたにすぎない。毎年、数千万回の接種が必要となるが、そこまで接種を拡大するには、各国政府や慈善団体が国際非営利組織Gaviワクチンアライアンスに数十億ドル(数千億円)を寄付する必要がある。Gaviは、発展途上国がワクチン接種プログラムを進める資金の調達を調整している。

 しかし、まもなく大規模なワクチン接種が始まれば、劇的な効果が得られると期待されている。2020年11月30日付けで医学誌「PLoS Medicine」に発表された論文によると、アフリカの21カ国のリスクが高い地域で毎年3000万回のRTS,Sが効率よく接種された場合、マラリア感染を毎年280万~680万人減らし、5歳未満の幼児1万1000~3万5000人の命を救うことができるという。

 WHOのテドロス事務局長は10月6日の記者会見で、「この古くて恐ろしい病気に有効なワクチンができる日を待ち望んでいました」と語った。「今日がその日です。歴史的な日です」

開発に長い時間がかかった理由

 過去20年間で、蚊帳の普及、迅速な診断、季節に合わせた抗マラリア薬の予防投薬などにより、世界はマラリアの制圧に向けて大きく前進した。こうした対策の結果、2000〜2015年の間に、マラリアにかかるリスクのある人々のうちで症例数が27%も減少した。しかし最近はペースが鈍化しており、2015年から2020年にかけては2%未満しか減っていない。

 2019年には、全世界で推定2億2900万人がマラリアに感染した。そのうちの94%がアフリカで、アジア、中東、米大陸でも数百万人が感染している。感染者のうち約40万9000人が死亡し、その3分の2が幼児だった。

 マラリアの抑制を再び前進させるため、WHOは既存の対策に加えてワクチンを導入したいと切望してきた。現在、140種類以上のマラリアワクチン候補が開発中だが、WHOから正式に使用を推奨されたものはRTS,Sが初めてだ。

次ページ:マラリアワクチンの開発はなぜ難しいのか

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