オオシャコガイは重さ200キロを超えることもあり、彫刻を施すと象牙のように見える。中国で人気が高く、象牙やその類似品と一緒に取引されている。(PHOTOGRAPH BY ADAM DEAN, NATIONAL GEOGRAPHIC)
オオシャコガイは重さ200キロを超えることもあり、彫刻を施すと象牙のように見える。中国で人気が高く、象牙やその類似品と一緒に取引されている。(PHOTOGRAPH BY ADAM DEAN, NATIONAL GEOGRAPHIC)
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 漁師たちが全長約120センチ、重さ約225キロもあるオオシャコガイを捕りに来た。南シナ海のサンゴ礁にボートのプロペラを当てて貝を切り取り、半月形の傷痕と壊れたサンゴを残して去った。

 オオシャコガイが希少になり、なかなか見つからなくても、漁師たちはやって来る。オオシャコガイの貝殻は象牙に似ており、中国では宝飾品や彫像の素材として高値で取引される。また、飼育用や食用目的でも密猟が後を絶たない。

 オランダ、ハーグを拠点に犯罪ネットワークの調査を行うNPO、野生動物司法委員会(WJC)によれば、フィリピン当局は2016年以降、年々個体数が減るオオシャコガイを13万3000トン押収したという。このうち13万2000トンは、2019年10月にフィリピン南部で備蓄されていたものだ。実に自由の女神像5体分の重さに相当する量だ。2021年に入ってからも備蓄されたオオシャコガイが押収されたケースは6件にのぼっている。

 中国は、2017年に象牙の取引を禁止した。これは相次ぐ摘発がきっかけになったと言われている。このことが象牙に似た外観を持ち、文化的にも象牙と同じ価値があると考えられるものに対する需要に影響を与えているようだ。WJCの報告書には、オオシャコガイは「中国で象牙製品をロンダリングするための隠れみのとして使われている」か、象牙の代替品を求める「市場の嗜好(しこう)の変化」のため需要が高まっている可能性があると記されている。

 WJCの事務局長オリビア・スワーク・ゴールドマン氏は「2つ(の製品)には関連性があり、一緒に取引されていることが分かっています」と話す。中国当局が押収した8つのオオシャコガイの貝殻には、彫刻を施した象牙やイッカクの牙、マンモスの牙、オナガサイチョウの突起といった類似品が含まれていた。これは過去5年間に中国で公表された押収品の5分の1近くに相当する。スワーク・ゴールドマン氏によれば、WJCの予備調査は、中国で象牙の取引が禁止されてから、eコマースプラットフォームでマンモスの牙の取引が増加していることを示唆しているという。(参考記事:「狙われるオナガサイチョウの「赤い象牙」」

 オオシャコガイは南シナ海、太平洋、インド洋、紅海のほとんどの生息域で、国の法律によって保護されている。また、ワシントン条約(CITES)では、シャコガイ12種すべての取引が制限されている。

「貝の王様」「海のホワイトゴールド」の異名も持つオオシャコガイが希少になっても、密漁は続いている。世界最大の貝であるオオシャコガイはすでに、フィリピンの一部などで絶滅。ヒレナシシャコガイやヒレシャコガイ、シラナミガイも違法取引の標的にされている。

 フィリピンで押収されたオオシャコガイの闇市場での取引価格ははっきりしていないが、メディアの報道とWJCの調査を総合すると、数千万ドル(数十億円)以上の価値があるとみて間違いなさそうだ。フィリピン当局は、押収した備蓄オオシャコガイは船で中国に運ばれる予定だったと見ており、その量の多さから犯罪組織の関与が疑われるとWJCはしている。

参考ギャラリー:オナガサイチョウの受難(2018年11月号)(画像クリックでギャラリーページへ)
参考ギャラリー:オナガサイチョウの受難(2018年11月号)(画像クリックでギャラリーページへ)
オナガサイチョウのくちばしの上にある突起は「カスク」と呼ばれている。中まで硬いが象牙より加工しやすく、凝った彫刻を施すことができる。中国風のデザインが彫り込まれた右のカスクは、米国の犯罪取り締まり機関に押収されたものだ。(PHOTOGRAPH BY TIM LAMAN)

次ページ:ヒスイのような貝殻

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