世界中の土の中にいて、生物学や遺伝学においてもっとも研究されている動物のひとつである線虫のC.エレガンス。(PHOTOGRAPHY BY SCIENCE PHOTO LIBRARY / ALAMY STOCK PHOTO)
世界中の土の中にいて、生物学や遺伝学においてもっとも研究されている動物のひとつである線虫のC.エレガンス。(PHOTOGRAPHY BY SCIENCE PHOTO LIBRARY / ALAMY STOCK PHOTO)
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「ミミズは音を聞けるのか」。これは人々が昔から抱いてきた疑問だ。1800年代、ダーウィンは自分の息子にミミズに向かってファゴットを演奏させ、彼らが身動きするかどうかによって、その答えを得ようとした。ダーウィンが出した答えは「聞こえない」だった。

 以来、聴覚は脊椎動物と一部の節足動物でしか確認されていなかった。ところが、9月22日付けで学術誌「Neuron」に発表された研究で、生物学の研究に多用されているC.エレガンスという線虫に聴覚があることが明らかになった。C.エレガンスには、耳のような特別な器官があるようには見えない。だが、皮膚全体が音を聞くいわば鼓膜として機能し、それを伝える神経も確かめられた。これは、節足動物以外の無脊椎動物が音を感知できることを示した初の研究だ。

 今回の発見は、米ミシガン大学のショーン・シュ氏の研究室が10年以上にわたって行ってきた研究の成果だ。体長1ミリのC.エレガンスに、嗅覚、味覚、触覚があることはすでに知られていたが、同チームは固有感覚(自分の手や足がいまどこにあるのかといった身体感覚)と、光の方向を知る感覚があることを突き止めている。

「それ以来、確認されていない感覚は聴覚のひとつだけとなりました」と、感覚生物学者のシュ氏は言う。「われわれは長い間、これを探し続けてきたのです」

 この発見は、生物がどのようにして音を聞き、聴覚がどのように発達してきたのか、その両方についての理解を飛躍的に前進させるものだと、シュ氏は言う。彼らの研究はまた、軟体動物や(ダーウィンのミミズを含む)その他の蠕虫(ぜんちゅう)のように、はっきりした聴覚器官を持たない生物を探索する可能性を大きく広げ、まだ聴覚の能力が解明されていない動物に光を当てることにつながるだろう。

鼓膜の代わりの意外なモノ

 音は空気の振動と言われている。だが、その振動は空気の圧力の変化であって、物体の振動とは性質が異なる。鼓膜を持たない多くの動物は、この空気圧の変化を感知する別の方法を進化させてきた。

 カエルの仲間には、内耳はあるが鼓膜はないものがいる。彼らはおそらく皮膚と骨を組み合わせて、音波を内耳に伝導させているのではないかと思われる。

 ハエトリグモや小型の昆虫は、脚に生えている非常に敏感な毛で音を検知する。(参考記事:「メダマグモ、耳はないけれど優れた聴覚をもつと判明」

 しかし、比較的単純な生物と考えられている大半の無脊椎動物が音を感じ取るメカニズムは、長い間解明されてこなかった。その理由のひとつは、そうした実験には高度な技術が必要であり、また、蠕虫が音を感じるとは考えにくかったため、やるだけの価値があると思う科学者がいなかったのだろう。

 C.エレガンスが音を感知できるかどうかを調べるために、シェ氏の研究室では、まずはダーウィンがやったように、彼らに向かって大きな音を鳴らしてみた。C.エレガンスがシャーレの振動ではなく、音を感知していることを確認するために、研究チームは遺伝子組み換えによって通常の触覚を取り除いたC.エレガンスを使用した。

次ページ:いろんな周波数でも試してみた

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