太陽から43億km以上、太陽から地球までの距離の約29倍も離れた宇宙空間で、1つの物体が太陽に向かって猛スピードで突進しながら、わずかに届く太陽光をきらりと反射した。その物体は氷に似ていて、想像を絶するほど古く、巨大だった。
約4時間後の2014年10月20日未明、チリのアタカマ砂漠の望遠鏡が夜空に目を向け、南天の広い範囲の写真を撮影し、このかすかな反射光をとらえた。
奇妙な光の点が、太陽系の歴史を残す「始原的な」巨大彗星であること、そしておそらく現代の望遠鏡で観察できたものとしては最も大きい彗星であることに科学者が気づくまでには、それから7年近い年月を要した。この発見は2021年6月に報告され、彗星は「バーナーディネリ・バーンスタイン彗星」と命名された。さらに研究者たちは、この彗星に関する知見を論文にまとめ、9月23日付で天体物理学の専門誌「Astrophysical Journal Letters」に投稿した。
彗星の発見を発表したときは「電話が鳴りやみませんでした」と、発見者の1人である米ワシントン大学の博士研究員であるペドロ・バーナーディネリ氏は語る。「私たちの発見に対して科学コミュニティーがここまで反応してくれるとは予想していませでした」。彼は、ペンシルベニア大学での博士課程があと数週間で終わるという時期に、当時、指導教官であったゲイリー・バーンスタイン氏と共同でこの彗星を発見した。
2031年に最接近
最新の推定によると、彗星の核の直径は約150km。過去数十年間に大きさが推定された彗星の中では最大である。ちなみに、欧州宇宙機関(ESA)の彗星探査機ロゼッタが2014年から2016年にかけて周回した67P/チュリュモフ・ゲラシメンコ彗星の直径はわずか4kmだった。(参考記事:「チュリュモフ彗星がアヒルの形になった理由」)
「彗星には、都市ほどの大きさのものから島ほどの大きさのものまであります」と、今回の研究に関与していないニュージーランド、カンタベリー大学の天文学者ミシェル・バニスター氏は説明する。バーナーディネリ・バーンスタイン彗星の大きさは、1729年に記録された非常に明るい(そしておそらく巨大な)彗星に匹敵するかもしれない。
バーナーディネリ・バーンスタイン彗星は、今後10年かけて内部太陽系に接近しながら明るさを増していく。近日点を通過するのは2031年1月21日で、太陽から約16億kmの距離(太陽と土星の平均距離よりもやや遠い距離)まで接近すると予想されている。その後、太陽系外縁部に向かって遠ざかりはじめ、少なくとも2040年代まで観測可能だろうという。
おすすめ関連書籍
この上なく美しく、どの本よりも詳しく、誰にでもわかりやすい。大人も子供も楽しめる、本格的な宇宙図鑑! 〔日本版25周年記念出版〕
定価:6,930円(税込)