本当にあった「空飛ぶビーバー作戦」、76匹が新天地へ

パラシュートで降り立つ1948年の奇抜な作戦、記録映像も発見

2021.10.14
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 ヘター氏はこの問題に取り組んだ。目的は、アイダホ州南西部から、州中部のソウトゥース山脈にあるチェンバレン盆地(現在はフランク・チャーチ=リバー・オブ・ノー・リターン自然保護区)まで、ビーバーを安全かつ迅速に、さらに手頃なコストで運ぶことだ。

 やがて、あるアイデアが浮かんだ。第二次世界大戦で余ったパラシュートにビーバーを入れた箱を取りつけ、小型機から降下させるという方法だ。

着陸したら開く箱

 ヘター氏が直面した難題は箱の設計だ。輸送時はビーバーが逃げられないようにしつつも、着地したらすぐに箱が開かなければならない。そこで、柳の枝を編んで試作品を作ってみた。これならば、ビーバーは枝をかじって簡単に抜け出すことができる。しかし、このアイデアはあきらめた。空中にいる間に出てしまう可能性があることに気づいたからだ。

 さらにさまざまな箱を試した。まずは空の状態で試し、その後、ジェロニモという名前の高齢のビーバーを使って何度も繰り返し実験した。最終的に落ち着いたのは、ふたのない2つの木製の箱を合わせて蝶番で留め、スーツケースのようにしたものだ。2つの箱には2.5センチほどの空気穴がついており、ロープで留められているが、着地してパラシュートが落ちてくると、蝶番が開く仕組みになっている。

 さらに試行を重ね、目的とする草地にビーバーを降下させるために最適な高度を突き止めた。精度を上げるには、樹木を避けて低空を飛ばなければならないが、パラシュートが開くだけの高度を保つ必要もある。最終的に、理想の高度は約150メートルから245メートルの間であることがわかった。

アイダホ州漁業狩猟局の担当者がビーバーを木製の箱に入れる様子。その後、飛行機に積み込んでパラシュートで降下させる。(PHOTOGRAPH COURTESY OF IDAHO FISH AND GAME)
アイダホ州漁業狩猟局の担当者がビーバーを木製の箱に入れる様子。その後、飛行機に積み込んでパラシュートで降下させる。(PHOTOGRAPH COURTESY OF IDAHO FISH AND GAME)
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「ジェロニモが箱から出てくるたび、誰かが待っていて捕まえるのです。かわいそうに!」と、ヘター氏は実験の報告書に記している。「最終的にあきらめるようになり、私たちが近づくと自分から箱に入り、次の旅の準備をするようになった」

 パラシュートでビーバーを降下させるというのは最高の方法ではないかもしれない。しかし、この試行の結果、ビーバーが箱の中で過ごす時間は陸上を移動する場合よりも短くなり、生存率も高くなることがわかった。

 非営利団体「動物福祉研究所」の野生生物学者であるD・J・シューベルト氏は「ビーバーを箱に入れてパラシュートで降下させるという方法は、利用できる手段のなかでは最適だったのかもしれません。それでも、ビーバーの健康が損なわれた可能性は高いと思います」と話す。一方、「動物の倫理的扱いを求める人々の会(PETA)」の専務理事を務めるステファニー・ベル氏は、パラシュート降下は残酷だと述べている。

作戦は「成功」

 1948年8月14日、初めての大規模なビーバーの降下が行われた。パイロットと保護官が乗りこんだ小型機には8つの箱が積み込まれた。その後の数日間で、76匹のビーバーが新たな土地に降り立った。

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