本当にあった「空飛ぶビーバー作戦」、76匹が新天地へ

パラシュートで降り立つ1948年の奇抜な作戦、記録映像も発見

2021.10.14
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1948年、ビーバーを移住させるために飛行機からパラシュートで降下させる方法が、米国のアイダホ州で行われた。(PHOTOGRAPH COURTESY OF IDAHO FISH AND GAME)
1948年、ビーバーを移住させるために飛行機からパラシュートで降下させる方法が、米国のアイダホ州で行われた。(PHOTOGRAPH COURTESY OF IDAHO FISH AND GAME)
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 その電話が鳴ったのは2014年のことだった。

「見つかりましたよ」。相手は謎めかして言った。声の主は、米アイダホ州立公文書館のミカル・デビッドソン氏だ。

「何がですか」。アイダホ州漁業狩猟局の歴史担当者だったシャロン・クラーク氏は尋ねた。

「ビーバーのフィルムです」

 クラーク氏がこのフィルムの存在を知ったのは、その6年前。今から見ればひどいことかもしれないが、1948年、漁業狩猟局はビーバーを新たな土地に移住させるため、パラシュートで空から降下させるという作戦を遂行した。その様子を収めた映像が見つかったのだ。クラーク氏は一刻も早く見てみたいと思った。

動物たちの移住作戦、今と昔

 動物の移住作戦は現在でも行われている。たとえば、クロサイの生息数を復活させるために、この動物に麻酔をかけ、ヘリコプターで足を吊り上げて新しい場所に移動させることがある。シロイワヤギに目隠しをしてヘリコプターで別の土地へ運ぶこともある。山岳地帯の貴重な植生が食い荒らされるのを防ぐためだ。飛行機から魚を湖に放すことも珍しくない。しかし、1948年当時、いや、今でさえも、ビーバーを箱に入れ、パラシュートで降下させて移住させるという発想には驚かされる。(参考記事:「史上最大、サイ100頭の空輸計画」

 当時、アイダホ州の担当者たちは途方に暮れていた。新鮮な空気と自然を求めて、都市部から州南西部に移住する住民が多くなっていたときだ。アイダホ州の南西部には多くのビーバーが住み着いていたが、ビーバーは木を倒してダムを造る習性があるので、あふれた水で庭が水浸しになったり、スプリンクラーや果樹園、水路などに被害が出たりするようになった。

 ビーバーが重要な「生態系エンジニア」であることは、漁業狩猟局も認識していた。ビーバーは、湿地帯の形成や維持、水質の向上、浸食の軽減、動物や魚、水鳥、植物などの生息地の維持などに貢献する。さらに、人間への水の供給を安定させる役割も果たしている。そこで局は、その一帯に住み着いていた76匹のビーバーを駆除するのではなく、移住させようと考えた。 (参考記事:「ビーバーのいる森は火災に強い、研究」

 当時、漁業狩猟局に務めていたエルモ・W・ヘター氏は、学術誌「Journal of Wildlife Management」の1950年4月号に掲載された「航空機とパラシュートによるビーバーの移動」という論文に、「陸路でビーバーを移住させるのは困難で、時間も費用もかかり、死亡率もかなり高い」と書いている。

 アイダホ州は1930年代から、人間の居住地にいる「迷惑な」ビーバーを移住させる取り組みを行っていた。かつては、北米全体で数千万匹ものビーバーが生息していたが、毛皮目的の乱獲により、1900年には10万匹ほどまで激減していた。やがて、ビーバーが川辺の生態系を守るうえで重要な役割を果たしていることがわかってくると、ビーバーの再導入と保護が優先されるようになった。

 陸路でビーバーを移住させる場合、まずわなを使って捕獲し、トラックで保護官のもとに運ぶ。翌日、別のトラックに乗せて移住先に一番近い道まで移動する。最後に、ビーバーを入れた箱を馬の背中に乗せて目的地まで運ぶ。

 ビーバーは太陽の熱に弱いので、常に冷やしたり水を与えたりしなければならない。ストレスのため、何も食べなくなることも多かった。「年を取ったビーバーは、危険なほど暴れることがしばしばだ」と、ヘター氏は論文に記している。「特に過酷なのは、最後の部分だ。生きたビーバーを乗せると、その動きやにおいによって、馬はおびえて言うことを聞かなくなる」

 別の輸送手段が必要なことは明白だった。

次ページ:やがて、あるアイデアが浮かんだ

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