嵐が熱帯雨林を7mも「散髪」、被害大きく回復しない恐れも、研究

ハリケーン・マリアが直撃したプエルトリコ、定点調査の結果が明らかに

2021.09.27
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 ほかの科学者たちは被害の大きさを地上から確認した。米コロンビア大学の森林生態学者であるマリア・ウリアルテ氏らは、マリアが枯らした木の本数は、1989年のハリケーン・ヒューゴの2倍にのぼることを発見した。ヒューゴはカテゴリー3の嵐で、エルユンケの熱帯雨林の生態系へのかく乱の基準とされてきた。

「1989年のハリケーンと比較すると、マリアは森林に対してはるかに壊滅的な打撃を与えたことがわかりました」とウリアルテ氏は言う。

 一方で、熱帯雨林のすべての植物が同じように被害を受けたわけではない。標高の低い場所にある、タボヌコなどの硬い巨木の多くは嵐で真っ二つに折れてしまったのに対し、エルユンケで最も標高が高い雲霧林を占める背の低いヤシの木は「非常によく耐えました」とウリアルテ氏は言う。ヤシの木の柔軟な幹はよくしなり、強風でも折れないからだ。

 ハリケーンの直撃から半年ほど経つと、林床にたっぷり届く太陽光を利用して、草や低木やセクロピアと呼ばれる熱帯の木の若木などの「先駆植物」が次々と生えてきた。「生態系が回復を続け、樹木が茂って林冠が閉じてくると、これらの先駆植物は淘汰されていきます」と、プエルトリコ大学の生態学者で、エルユンケのLTERプログラムの主任研究員であるジェス・ジマーマン氏は言う。

まちまちな回復スピード

 モートン氏は2020年3月にプエルトリコに戻り、再び航空調査を実施した。コロナ禍によりNASAがすべての野外調査を取りやめたため調査範囲は狭くなったが、2018年以降にエルユンケに起きた変化がわかるだけのデータは集められた。

 9月9日付けで学術誌「Ecosystems」に発表された調査結果は、研究者たちを驚かせた。一般に、森林が大規模なハリケーンの被害から回復するときには、林冠が急激に高くなる。実際、ハリケーン・マリアによって林冠が低くなった区域の約3分の2は、2018年から2020年の間に林冠が急激に高くなっていた。ところが、残る3分の1近くは低いままだったのだ。

「予想外の発見でした」とモートン氏は言う。

2018年1月18日、プエルトリコのエルユンケ国立公園で被害を受けた樹木の調査を手伝う米コロンビア大学の博士課程学生アンドリュー・クイベマン氏。研究者たちは、ハリケーン「マリア」がこの広さ115平方キロメートルの緑豊かな熱帯雨林に与えた被害を調査し、温暖化する世界で森林が長期的にどのように変化する可能性があるか解明しようとしている。(PHOTOGRAPH BY ERIKA P. RODRIGUEZ, THE NEW YORK TIMES/REDUX)
2018年1月18日、プエルトリコのエルユンケ国立公園で被害を受けた樹木の調査を手伝う米コロンビア大学の博士課程学生アンドリュー・クイベマン氏。研究者たちは、ハリケーン「マリア」がこの広さ115平方キロメートルの緑豊かな熱帯雨林に与えた被害を調査し、温暖化する世界で森林が長期的にどのように変化する可能性があるか解明しようとしている。(PHOTOGRAPH BY ERIKA P. RODRIGUEZ, THE NEW YORK TIMES/REDUX)
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 モートン氏は、森の一部の損傷が大きすぎて、木々がすぐには再生できなかったのかもしれないと考えている。その場合、木が背を高くするより根の再構築を優先する可能性がある。しかし、回復が遅れている区域がある理由はわからない。モートン氏によると、樹種や地形が森林の回復に影響を及ぼすことはあるが、エルユンケの回復の遅い区域は特定の樹種や地形に関連していないという。

 論文の共著者となったウリアルテ氏は、自身が毎年実施しており、今年も9月初頭に始めた別の定点調査によって、この謎を解く手がかりが得られることを期待している。森林の回復に影響を及ぼしている「複合的な要因」を特定できば、「森林の回復の軌跡が、過去のハリケーンの後に観察されたものと似ているのか、それとも別の方向に向かっているのかを科学者が理解するのに役立つでしょう」と氏は言う。

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