単細胞性の酵母が試験管で「巨大な多細胞体」に進化、驚きの実験

多細胞生物の進化の謎解明に光、酸素の量を変えて10年目のブレイクスルー

2021.09.18
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 2016年末から開始された実験では、それぞれの酸素量の試験管を5本ずつ用意した。はじめのうち、クラスターは少しずつ大きくなっていったが、しばらくすると成長が止まった。しかし実験開始から約200日後、無酸素状態のうちの1本で、肉眼でも確認できるほど大きなクラスターができ始めた。さらに、他の4本でも同じように目に見えるクラスターができた。

酵母は、最初は小さくて液体のなかに浮かんでいても目に見えなかったが(左)、600日後、肉眼でも確認できるほど大きなクラスターができた(右)。(PHOTOGRAPH BY OZAN BOZDAG AND WILLIAM C. RATCLIFF)
酵母は、最初は小さくて液体のなかに浮かんでいても目に見えなかったが(左)、600日後、肉眼でも確認できるほど大きなクラスターができた(右)。(PHOTOGRAPH BY OZAN BOZDAG AND WILLIAM C. RATCLIFF)
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 ボズダグ氏は、最初のうちは単なる偶然だろうと思った。しかし、何度か実験を繰り返してみると、「偶然などではなく、自然選択の結果であるとわかりました」という。

 600日後、無酸素状態の酵母のクラスターは、平均45万個の細胞を持つまでに成長した。この驚くべき結果は、地球上に多細胞生物が現れ始めたころ、酸素が一部の生物の進化の妨げになっていた可能性があることを示している。

細胞の形とクラスターの構造も変化

 さらに実験の過程でボズダグ氏とラトクリフ氏は、最も大きなクラスターの細胞の一つひとつが細長くなり、元のほぼ球形から大きく変化していることに気付いた。しかも、母細胞と娘細胞との接触面が広がっており、クラスターの枝が強くなっている可能性がある。

 成長したクラスターは、木のように硬くなっていた。予想外の硬さに研究者たちは驚いたが、なぜそうなるのか最初のうちは全くわからなかった。

顕微鏡で見ると、クラスターの大きさの進化がさらにはっきりと確認できる。右上の写真は元のクラスターで、3000回以上の出芽を繰り返し、およそ2万倍の大きさにまで成長した。左下のスケールバーは、長さ0.05ミリを表している。(PHOTOGRAPH BY OZAN BOZDAG)
顕微鏡で見ると、クラスターの大きさの進化がさらにはっきりと確認できる。右上の写真は元のクラスターで、3000回以上の出芽を繰り返し、およそ2万倍の大きさにまで成長した。左下のスケールバーは、長さ0.05ミリを表している。(PHOTOGRAPH BY OZAN BOZDAG)
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 それから数カ月後、今回の論文の共著者で、以前ジョージア工科大学の博士課程に在籍していたセイエド・アリレザ・ザマニ・ダージャ氏が、米イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校の強力な走査型電子顕微鏡でこの酵母を調べてみると、クラスターを形成する細胞の枝が複雑に絡みあっていることがわかった。あまりに深く絡まっているため、枝の1本が破壊されたくらいでは全体的な構造はびくともしないというわけだ。

多細胞生物に進化する可能性

 もちろん、この実験は多細胞生物の進化の過程を忠実に再現したものではない。植物や人間は酵母から進化したわけではないし、その酵母自体が、高度に進化した菌類とはいえ、数十億年前に初めて複数で集まって多細胞生物の基となった細胞とは異なるものだ。

 しかし、これから数十年かけて研究を続けて行けば、その進化の過程によって、酵母は思ってもみなかった領域に入っていく可能性もあると、英バース大学の進化生物学者ティファニー・テイラー氏は言う。

 クラスターが大きくなればなるほど、クラスター全体に必要な栄養が行き渡りにくくなる。クラスター内部の奥深くにある細胞は、栄養が足りずに死んでしまうかもしれない。それとも、変異を起こしてクラスターに穴が開いたり、通り道ができて栄養が内部まで浸透することはあり得るだろうか。また、いずれ異なる種類の細胞を発達させ、それぞれが特殊な任務を受け持ち、真の多細胞生物のような進化を遂げるだろうか。

 ラトクリフ氏やボズダグ氏を含め、その答えを知る者はいない。そのためには、何年も、あるいは何十年もかけて実験に取り組むしかない。

「30年もかかるような進化の実験をやりたいと思う人はそんなにいません。けれど、その成果は計り知れないほど大きいでしょう」と、ラトクリフ氏は話す。

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文=MICHAEL GRESHKO/訳=ルーバー荒井ハンナ

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