韓国の「ソウルの森」公園にあるチューリップの花壇の前で写真を撮るため列を作る地元の人びと。アジアではマスクをするのは普通のことだったが、米国人はずっと「マスク嫌い」だった。(Photograph by Michael Jun Park, Nat Geo Image Collection)
韓国の「ソウルの森」公園にあるチューリップの花壇の前で写真を撮るため列を作る地元の人びと。アジアではマスクをするのは普通のことだったが、米国人はずっと「マスク嫌い」だった。(Photograph by Michael Jun Park, Nat Geo Image Collection)
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 マスクは窮屈だし、息が詰まりそうだ。マスクをして地元ロサンゼルスの食料品店であわただしく買い物を済ませたスーザン・ヘイル・ギドローさんは、マスクを外せるところまで来ると安堵のため息をついた。

「息苦しく感じました」と60歳のギドローさん。それでも、この数週間でマスクが好きになってきたという。

 マスクが新型コロナ感染症をはじめとする様々な呼吸器感染症の予防に役立つことは、調査により明らかになっている。マスクの着用を巡る激しい対立がそこかしこで起こっている米国でさえ、多くの人がマスクの価値を認めている。

 ギドローさんのように、パンデミック(世界的大流行)が収束してもマスクをやめる気はないという米国人も増えている。自分自身とほかの人たちを病気から守るため、混雑した屋内や、病気の人や抵抗力の低下した人の近くでは、これからもマスクをするつもりだという。

 手洗いやソーシャルディタンスの確保のようなほかの感染予防対策とあわせて、マスクは米国の社会に長く根付いていくかもしれない。

「マスクよ永遠なれ、ですよ」とギドローさんは笑った。

 7月中にワシントン・ポスト紙が行った全米の世論調査によると、回答者の70パーセント近くが病気になったら必ずマスクをすると答え、40パーセント超がそうではなくても人混みではマスクを着用すると答えた。調査の結果は、しばしばマスク着用の有無も争点になっている政治的2極化とは相反する。共和党支持者の半数以上が、パンデミックの収束後も病気になったらマスクをするつもりだという(民主党支持者では約8割が同様の回答をしている)。

 米エール大学医学部内科助教のシーラ・シェノイ氏は、これほど多くの人が今後もマスクをするつもりだと聞いて、正直驚いた。病気を防ぐために「マスクが効果的であり、有益な手段になりうるのだと人びとを説得するのに、ずっと大変な苦労をしてきましたから」

 しかし、氏はすぐに、マスクの着用は「誰もが自分を守るために自分でできること」だと付け加えた。ウイルス自体を制御はできないが、マスクの着用によって自分の健康をある程度は管理できる。その意味では、「そうしたいと思う人の気持ちはよくわかります」と言う。

多難だったパンデミック初期

 米国ではこれまで広く用いられることはなかったものの、マスクは100年以上にわたって病気のまん延を防ぐために使われてきた。19世紀後半に、少数の外科医が手術中にマスクをし始めた。

 1960年代に、日本人はマスクをすることでH3N2亜型(香港かぜ)のインフルエンザウイルスのまん延を防いだ。2000年代にはアジアの多くの国で、コロナウイルス感染症であるSARSやMERSの流行により、感染予防のためにマスクを着用することが一般的になった。

 しかし、米国人の多くは、新型コロナウイルス感染症の時代になってもなかなかこの習慣を取り入れようとはしなかった。

次ページ:「マスクをする気まずさは相当なものでした」

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