コロナで注目の抗寄生虫薬イベルメクチン、今わかっていること

米国で処方数が24倍に急増、過剰摂取の健康被害に警告する事態に

2021.09.06
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 そうした議論に対して、「効果があるという証拠がないのであれば、その製品がもたらすリスクは一切許容できません」と米非営利団体、公益科学センターの会長で元FDA副長官のピーター・ルーリー氏は指摘する。「効果が証明されていないのに多額のお金を無駄にしてイベルメクチンを摂取し、病気になった人もいます。私の懸念は、イベルメクチンによって、ワクチンやマスク、ソーシャルディスタンスなど、実際に効果がある対策をしなくなる人がいるのではないかということです」

 また、イベルメクチンの支持者たちは、医師から同薬の処方箋を入手できないために、人間用との違いを知らずに動物用のイベルメクチンを農場用品店で購入し、服用してしまうかもしれない。動物用の推奨用量ははるかに多い。その高用量のイベルメクチンを人間が摂取した場合、中毒になる可能性が高いと、南フロリダ大学の保健ウイルス学者マイケル・テン氏は警告する。

 ワクチン懐疑派の中には、確固とした科学的証拠がなく、医師が長期間の服用について警告しているにもかかわらず、感染予防のためにイベルメクチンに頼る人もいる。現在のところFDAは、参加者の追跡調査や健康状態のモニタリングを頻繁に行う臨床試験を除き、新型コロナに対してイベルメクチンを使用または処方すべきではないとしている。

「イベルメクチン騒ぎ」の経緯

 イベルメクチンは1970年代に発見・開発された。抗寄生虫化合物を探していた大村智北里大学特別栄誉教授が、日本のゴルフ場周辺の土壌から、マウスの寄生虫を駆除する新種の放線菌ストレプトマイセス・アベルミチリス(Streptomyces avermitilis)を発見した。この放線菌が産生するアベルメクチン(エバーメクチンとも)という分子に治療効果があり、後にイベルメクチンという動物用医薬品の製品化につながった。

 1987年、ヒトに対する臨床試験で回旋糸状虫(Onchocerca volvulus)によるオンコセルカ症(河川盲目症)への有効性が確認され、1996年にFDAが「ストロメクトール」の販売名で人間への投与を承認した。

 以来、イベルメクチンは、ダニや回虫などの寄生虫による熱帯病に対する、安全性の高い治療薬として認められるようになった。

 そうしたことから、新型コロナの治療に適応外使用できる安全な薬を探していた科学者によって、すでにジェネリック医薬品(後発医薬品)があるイベルメクチンが候補に挙がったわけだ。

 初期の研究の一つは、高濃度のイベルメクチンが試験管内で新型コロナウイルスの複製を阻止したという論文だ。2020年4月3日付けで学術誌「Antiviral Research」に発表された。ヒトや動物における新型コロナ感染症の治療および予防の効果を調査したものではないが、この研究は大きなニュースとなり、一般の人々のイベルメクチンに対する関心を高めた。

 FDAはすぐに反応し、新型コロナの治療にイベルメクチンを使用しないよう警告する声明を発表した。また、論文が掲載された学術誌の編集者には、実験に使用されたイベルメクチンの量が多いことを懸念する2通の投書が届いた。

 その直前、新型コロナ患者にイベルメクチンを投与すると、死亡率が大幅に減少したと主張する査読前の論文が発表された。物議を醸したこの論文は、後に完全に撤回された。しかし、学術誌に掲載されなかったにもかかわらず、この研究はラテンアメリカでイベルメクチンが広まるきっかけとなった。

 イベルメクチンの有効性と安全性が世界中の臨床試験で検証され続ける中、2020年11月にエジプトの研究者アーメド・エルガザール氏らが発表した査読前の論文は、イベルメクチンの可能性に対する関心を再び呼び起こした。この研究では、新型コロナ患者に感染の初期段階でイベルメクチンを投与したところ、大幅に回復し、死亡率も90%以上低下したとされた。しかし、「倫理的な問題」を理由に、2021年7月に論文は撤回された。

「新型コロナに対する効果が証明されていない薬を人々が信じているのは悩ましいことです」とテン氏は話す。「ワクチンを打ってくれればいいのに、と思います」

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文=PRIYANKA RUNWAL/訳=桜木敬子

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