サンセバスチャンの有名なピンチョスバルで、リンゴ酒「サガルド」を注ぐバーテンダー。(Photograph by Monica Gumm, Laif/Redux)
サンセバスチャンの有名なピンチョスバルで、リンゴ酒「サガルド」を注ぐバーテンダー。(Photograph by Monica Gumm, Laif/Redux)
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 人口当たりのミシュランの星の数が最も多いとされる美食の街、スペイン北部のサンセバスチャン。近年は、ピンチョスと呼ばれる小皿料理を出すバルが旅行者に人気だが、サンセバスチャンにはもっと歴史が古く魅力的な食の遺産がある。リンゴ酒「サガルド」だ。

 サガルドは、リンゴを発酵させて作る、酸味が効いた辛口の微発泡酒。スペイン北部、バスク地方の人々にとってはなくてはならない名物で、その歴史はローマ時代以前に遡る。

 サガルドを満喫したいなら、リンゴ酒醸造所「サガルドテギ」が一番だろう。巨大な樽から直接注がれる飲み放題のサガルドを、伝統料理と共に楽しむことができる。醸造所は街中のほか、周囲の田園地帯や村々に点在している。

 サガルドテギは、バスク人のコミュニティと食文化の中心だ。バスク料理の素朴で自立した性質が表れており、ピンチョス以外にも楽しみがあることを教えてくれる。しかし、この醸造所の重要性を理解するには、まず数百年前まで歴史をたどり、海へと目をやる必要がある。

1680年から同じ家族が生産を続けている醸造所「シドレリア・バルカイステギ」で、樽から注がれるサガルド。(Photograph by Agefotostock, Alamy Stock Photo)
1680年から同じ家族が生産を続けている醸造所「シドレリア・バルカイステギ」で、樽から注がれるサガルド。(Photograph by Agefotostock, Alamy Stock Photo)
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リンゴ酒が可能にした大航海

 16世紀、サンセバスチャンでサガルドを作るためのリンゴ圧搾機が造られ始めた頃、バスク人の船乗りはヨーロッパの海と捕鯨業を支配していた。南米へ航海し、北大西洋に捕鯨のため遠征し、カナダ東方のニューファンドランドまで行ってクジラやタラを獲った。

「バスク人の造船技師と航海士は引く手あまたで、コロンブスやマゼランなどの航海でも欠かせない存在でした」と、バスク人について20年以上研究し、その海での冒険を題材に小説を書いているクリスティーン・ベンダー氏は語る。造船技術と航海術に長けたバスク人は、同時代のどの文化集団よりも長く、遠くまで航海することができた。

 当時、大西洋上のバスク人以外の船では、ある病気が猛威をふるっていた。「海のペスト」と恐れられたその病気は、今では壊血病だったことがわかっている。15世紀から19世紀にかけて、200万人以上の船乗りが壊血病のために亡くなった。これは難破、嵐、戦闘、他のあらゆる病気による死者を合わせた数を上回る。

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