学校でのマスク義務化めぐり対立が激化、新学期迎え、米国

デルタ株で子どもの新規感染者が急増、個人の自由か公共の利益か

2021.09.01
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 また、病院に運ばれてくるのは重症化リスクの高い子どもたちだけではない。「基礎疾患のない子どもたちも入院しています」とフローレス氏は言う。「そのほとんどが完全に回復しますが、誰が合併症を発症するかは予測できません」

 米国小児科学会の8月23日の発表によれば、19日までの1週間に子どもの新規感染者数は全米で18万人を超え、全体の2割以上になった(編注:子どもの年齢の範囲は算出に使われた各州の統計で異なる)。そのうち入院が必要となるのは2%未満だが、感染が急増すればその人数は増え、しかも通常は冬に流行するRSウイルス感染症の流行に対応している病院に、さらなる負担をかけることになる。

 新学期が始まって、マスクを着用しないと感染率はさらに上昇するとみる研究結果もある。8月11日付けで査読前の論文を投稿するサーバー「medRxiv」に発表された研究では、マスクの着用や定期的な検査を要請しない一般的な小学校では、新学期が始まってから3カ月以内に全体の75%の生徒が新型コロナウイルスに感染するが、マスクの着用を徹底することで、感染者を少なくとも全体の50%まで減らせると予測された。また、マスクの着用に加えて定期的に検査と隔離を実施すれば、感染者を全体の22%まで減らすことができるという。

 昨年度までは、学校で新型コロナウイルス感染が広がりやすいことを示す証拠はほとんど得られなかったのに対し、対面式の授業を行わない弊害を示す証拠が多く得られたため、新年度からは対面授業を行うよう米疾病対策センター(CDC)とAAPは推奨していた(編注:米国の新年度は9月から)。しかし、昨年度までの研究結果は、デルタ株が登場する前に行われたものだ。

 オリジナルのウイルスより少なくとも2倍は広まりやすいと言われるデルタ株の流行が始まった後に、学校での流行を調べた研究は数少ない。だが、4月から6月の間にコロラド州メサ郡で行われた調査により、学校と介護施設でクラスターが発生しやすいことが8月13日付けでCDCの週報に発表されている。また、ノースカロライナ州の研究者が、昨年、学校でのマスクの着用により感染が減少したことを強く示唆する証拠について、米ニューヨーク・タイムズ紙に8月10日に詳しく寄稿した。(参考記事:「なぜデルタ株は脅威なのか、あらためてコロナ感染対策の徹底を」

 成人については、室内では常にマスクを着用することで新型コロナウイルスの感染を大幅に減らせることが明確に示されている。フローレス氏は、この証拠は大人だけでなく子どもにも当てはまると断言する。

 児童や教員やその家族を守るための第一歩は、全員がワクチンを接種することだが、12歳未満の児童はまだワクチン接種を受けられないため、ワクチン以外の対応が必要だと氏は言う。なお、米国小児科学会は食品医薬品局(FDA)に対して、臨床試験で蓄積されたデータに基づき、12歳未満の子どもに対する新型コロナワクチンの認可を早めるように要請している。

保護者・学校・自治体と州政府が対立

 現在、少なくとも5つの州で訴訟が行われている。テキサス州では、いくつかの郡や学区がアボット知事の命令に反してマスク着用を要求した。当初、テキサス州最高裁判所はアボット知事によるマスク義務化禁止令を支持したが、保護者が提起した一連の訴訟の1つにより、アボット知事のマスク義務化禁止令は差し止められ、学校でのマスク着用義務は今のところ維持されている。

 訴訟以外にも州内の対立は激化しており、オースティン近郊では保護者が教師のマスクを引き剥がすという事件が起きている一方で、いくつかの学区では、マスクの着用を服装規定に追加することでアボット知事の命令を回避しようとしている。

次ページ:医師の襲撃事件も発生

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