青く澄んだ美しい海で知られるメキシコのカリブ海ビーチが今、大量の海藻に占拠され、硫黄のような腐敗臭が漂い、ほとんど泳ぐこともできない状態となっている。
ユカタン半島のカンクンとトゥルムを結ぶ、パラダイスのような海岸線を苦境に陥れている海藻は、ホンダワラ類だ。
ホンダワラは標準的な量であれば有益な面もある。たとえばホンダワラが生育する海は、魚やエビ、カメなどにすみかを提供する。「ホンダワラは非常に重要な生息場所となっており、海中の『黄金の森』とも呼ばれます」と、米サウスフロリダ大学の光学海洋学教授チュアンミン・フー氏は言う。(参考記事:「浮遊性の藻類が育む「地球上でここだけの海」」)
しかし、カリブ周辺のホンダワラは2011年以降、過去に類を見ない大繁殖を起こしている。科学者がNASAの衛星データを利用して行った調査によると、2015年と2018年には海に浮かぶホンダワラの帯の長さは8850キロメートルに及んでいたという。
原因は、ブラジルのアマゾン川から流出する農業用水や下水が増えたことや、大西洋東部の水温上昇や湧昇の影響で、海水中の栄養分が増えたためではないかと、科学者らは考えている。
その結果、外洋では太陽光がホンダワラに遮られ、サンゴ礁まで届かなくなっている。腐敗したホンダワラは、海洋生物にとって有害な化合物を放出する。影響は陸上にも及んでいる。海岸に打ち上げられたホンダワラの山は、ウミガメの産卵の妨げとなる。この海藻はまた、ひどい悪臭を放つため、浜辺を訪れる人たちが頭痛や吐き気を覚えることもある。(参考記事:「「死の海域」が過去最大規模のおそれ、米国南部」)
こうした現象が始まったのは十年前で、それ以降、海岸に漂着する海藻の量は増減を繰り返している。4月から8月まで続く「ホンダワラのシーズン」には通常、ビーチは藻に覆い尽くされる。2018年など、繁殖量が特に多い年もあり、そして2021年もどうやら「記録的な年」になりそうだと、フー氏は言う。「これは一過性の現象ではありません。今ではこれが当たり前の状態なのです」
これは生態系のみならず、経済にとっての危機でもある。観光業が州のGDPの87%を占めるメキシコのキンタナロー州では、ホンダワラの大量発生は暮らしを脅かす非常に差し迫った脅威となっている。この事態に対処する方法はあるのだろうか。
経済的な影響と生態系の問題
2021年6月にカンクン国際空港を利用した乗客は200万人を超え、2020年2月以来最多となった。メキシコのリゾート地リビエラマヤの客室稼働率は、同国が観光客に対するCOVID-19の規制を行っていないこともあって、パンデミック前の水準に戻っている。しかし、ホンダワラの問題が再び客足を鈍らせる可能性はある。「COVID以前、ホンダワラが予約に影響を与えていたことは確かです」と、旅行代理店「ジャーニーメキシコ」のCEOザック・ラビノー氏は言う。「ホンダワラは常に逆風となっていました」
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