売られるチーター

違法取引が横行するソマリランドで、密輸の現状と撲滅活動を追った

2021.08.27
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
誌面で読む
アスターと名づけられた生後7カ月のチーター。密売人に売り渡される前に当局によって保護された。毎年、多くのチーターの子(ことによると数百頭もの)が、ソマリランドからペルシャ湾岸諸国へ違法に売買されている。(PHOTOGRAPH BY NICHOLE SOBECKI)
アスターと名づけられた生後7カ月のチーター。密売人に売り渡される前に当局によって保護された。毎年、多くのチーターの子(ことによると数百頭もの)が、ソマリランドからペルシャ湾岸諸国へ違法に売買されている。(PHOTOGRAPH BY NICHOLE SOBECKI)
この記事は雑誌ナショナル ジオグラフィック日本版2021年9月号に掲載された特集です。定期購読者の方のみすべてお読みいただけます。

アフリカでは幼いチーターが捕らえられ、ペットとして売られる違法取引が横行している。犯罪組織による密輸の現状と、ソマリランド当局の撲滅活動を追った。

 この動物に見覚えがありますか?

 検察官はケージに押し込められた5頭の幼いチーターを指して、そう質問した。法廷の前方にある格子で囲まれた小部屋には2人の被告人がいる。鳥のさえずりのようにも聞こえるチーターの悲痛な鳴き声が、コンクリートの床や壁に響き渡った。

 被告人の一人、アブディラフマーン・ユスフ・マフディ(通称アブディ・ハヤワーン)は、チーターに目をやると、「一度も見たことがありません」と言って手を横に振った。

 一拍置いて、もう一人の被告人、マハメド・アリ・グーレードが口を開いた。少し小さく見えるが、自分の家にいたチーターかもしれないと。

 裁判はソマリランドの首都ハルゲイサで開かれていた。ここはソマリアからの分離独立を一方的に宣言している共和国だ。「アフリカの角」と呼ばれるこの一帯では、希少でネコ科の象徴ともいえるチーターの違法取引が横行している。ソマリランドがそうした密売組織の取り締まりを強化しているさなかに、2人の被告人は野生のチーターの子を捕獲した罪に問われている。

 2020年10月、警察はある情報をもとに捜査を開始。グーレードの自宅で10頭の幼いチーターを発見し、グーレードとアブディ・ハヤワーンを逮捕した。ソマリランドでチーターの違法取引が摘発されるのは4カ月間で6回目だった。

 グーレードは小部屋の格子に近づき、裁判官にこう訴えた。彼は数カ月前に知り合ったばかりの友人アブディ・ハヤワーンのために、好意でチーターの子を預かり世話をしていただけで、それが違法だとは知らなかったという。

「アブディ・ハヤワーンが私をこの一件に巻き込んだのです。私には18人の子どもと4人の妻がいます」。グーレードはそう言って、やり直すチャンスが欲しいと嘆願した。

 アブディ・ハヤワーンは無反応のまま、背後の長椅子に座っている。

 アブディ・ハヤワーンは過去に3回、チーターに関する事件で有罪判決を受け、ソマリランドで悪名高いチーターの密売人として知られていた。アブディ・ハヤワーンというあだ名は「アブディ・アニマル」という意味だ。彼は立ち上がると、平然とした口調で言い分を述べた。

 確かに以前、チーターの密売で服役したことはあるが、今はもう違法取引には関わっていないという。チーターの子たちはグーレードのもので、「私が関与したという明白な証拠は何もありません」

 裁判官は納得したようには見えなかった。

ハルゲイサの法廷の、格子に囲まれた小部屋で、裁判官の言葉を聞くアブディ・ハヤワーン。チーターを密売した罪に問われ、裁判にかけられた。過去に3回有罪判決を受けているが、無罪を主張した。(PHOTOGRAPH BY NICHOLE SOBECKI)
ハルゲイサの法廷の、格子に囲まれた小部屋で、裁判官の言葉を聞くアブディ・ハヤワーン。チーターを密売した罪に問われ、裁判にかけられた。過去に3回有罪判決を受けているが、無罪を主張した。(PHOTOGRAPH BY NICHOLE SOBECKI)

 最近の推計によれば、野生のチーターの成獣は7000頭を下回り、その大半はアフリカの南部と東部に生息している。国際的なチーターの商取引は1975年に禁止されたが、2010年から19年までの間に、世界全体で3600頭以上ものチーターが売りに出されたり、違法に売買されたりしている。15年間にわたってチーターの取引を調査している米コロラド州立大学の研究者パトリシア・トリコラーチェによると、捜査機関が売買を阻止できたのは、そのうちの約1割にすぎない。ソマリランドでは1969年以来、野生のチーターの捕獲は違法とされている。

赤ちゃんチーターを狙う

 チーターの生存を脅かす最大の要因は、生息地の消失と、家畜を殺された牧畜民による報復だが、その状況をさらに悪化させているのがチーターの子の違法取引だ。密売人たちは、母チーターが狩りに出ている隙を狙ったり、授乳期の母親が巣に戻るのを追跡したりして子を連れ去る。多くの場合、それは生後間もない赤ちゃんだ。

 その後はラクダや車、船などを使い、時には徒歩でアフリカの角を北上し、アデン湾を渡ってイエメンまでチーターを運ぶ。その距離は350キロを超え、何週間もかかることがある長旅だ。生き延びたチーターはペットとしてサウジアラビアやアラブ首長国連邦(UAE)、クウェートなどの湾岸諸国に売られていく。

ハルゲイサにあるチーター保全基金(CCF)の救護施設で検診を受けるアスター。鎮静剤の効果を高めるため、アイマスクをかけ、耳にティッシュを詰めている。密売されたり、犯罪組織から押収されたりしたチーターの子は、長く過酷な旅を強いられ、栄養状態も悪いため、命を落とすことも多い。(PHOTOGRAPH BY NICHOLE SOBECKI)
ハルゲイサにあるチーター保全基金(CCF)の救護施設で検診を受けるアスター。鎮静剤の効果を高めるため、アイマスクをかけ、耳にティッシュを詰めている。密売されたり、犯罪組織から押収されたりしたチーターの子は、長く過酷な旅を強いられ、栄養状態も悪いため、命を落とすことも多い。(PHOTOGRAPH BY NICHOLE SOBECKI)

次ページ:チーター取引の中心地とみられるソマリランド

ここから先は、「ナショナル ジオグラフィック日本版」の
定期購読者(月ぎめ/年間のみ、ご利用いただけます。

定期購読者(月ぎめ/年間)であれば、

  • 1 最新号に加えて2013年3月号以降のバックナンバーをいつでも読める
  • 2ナショジオ日本版サイトの
    限定記事を、すべて読める

おすすめ関連書籍

2021年9月号

太陽系の小天体探査/売られるチーター/アンデスの気象観測所/暗雲のアフガニスタン/テロ現場の失われた声

米国同時多発テロから20年。「テロ現場の失われた声」では現場で見つかった品々の物語を、そして「暗雲のアフガニスタン」はタリバンの手に再び落ちたアフガニスタンをレポートします。このほか「太陽系の小天体探査」「売られるチーター」などの特集をお届け。特製付録は、太陽系の誕生から現在の姿までを網羅したマップ付き!

特別定価:1,280円(税込)

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
誌面で読む