アフガニスタンの国立音楽院に通う17歳の少女。東部の奥地にある村の出身だ。父親は、娘に音楽を学ばせているという理由から、反政府武装勢力タリバンに3度も誘拐され、身代金を奪われた。(PHOTOGRAPH BY KIANA HAYERI)
アフガニスタンの国立音楽院に通う17歳の少女。東部の奥地にある村の出身だ。父親は、娘に音楽を学ばせているという理由から、反政府武装勢力タリバンに3度も誘拐され、身代金を奪われた。(PHOTOGRAPH BY KIANA HAYERI)
アフガン兵を狙って爆弾を仕掛け、告発された16歳のタリバン兵。青少年矯正センターにいたが、反タリバン民兵の司令官の父親は、息子の釈放書類への署名を拒んでいた。(PHOTOGRAPH BYKIANA HAYERI)
アフガン兵を狙って爆弾を仕掛け、告発された16歳のタリバン兵。青少年矯正センターにいたが、反タリバン民兵の司令官の父親は、息子の釈放書類への署名を拒んでいた。(PHOTOGRAPH BYKIANA HAYERI)
この記事は雑誌ナショナル ジオグラフィック日本版2021年9月号に掲載された特集です。定期購読者の方のみすべてお読みいただけます。

アフガニスタンが享受してきた自由が消え去ろうとしている。米軍の完全撤退に乗じて、タリバンが再び国を掌握したのだ。

 数カ月前の週末、アフガニスタン南部の都市カンダハルにあるカフェには、水たばこの青い煙が立ちこめていた。

 ここが戦場であることをつい忘れそうになる。ひげを入念に整え、ゆったりとしたソファに体を沈めてエスプレッソを飲んでいたのは、専門職に就いている若い男性たちだ。頭上のスクリーンにはトルコやインドのミュージック・ビデオが流れているが、あらわになった女性のおなかは放送局の自主規制でぼかしが入っている。

 そういうところは保守的なイスラム社会らしいが、カフェの客はタリバン政権崩壊後に成人した世代で、都会の暮らしを自由に満喫していた。カンダハルで生まれたタリバン政権が抑圧的な原理主義を掲げ、男性はひげを整えることが許されず、女性はブルカで全身を覆うことを強制された頃の記憶など、彼らにはほとんどない。

カンダハル郊外の開発地区にあるカフェ。ミュージック・ビデオやスポーツ中継を流し、実業家や官僚、少年たちで夜中までにぎわっていた。女性も入れたが、実際に来たのはオープンから2年間で数人にすぎなかった。(PHOTOGRAPH BYKIANA HAYERI)
カンダハル郊外の開発地区にあるカフェ。ミュージック・ビデオやスポーツ中継を流し、実業家や官僚、少年たちで夜中までにぎわっていた。女性も入れたが、実際に来たのはオープンから2年間で数人にすぎなかった。(PHOTOGRAPH BYKIANA HAYERI)

 カフェの経営者アフマドゥラ・アクバリは、2018年にドバイから帰国し、カンダハル郊外の開発地区、アイノマイナで商売を始めた。アクバリは店のカウンターの裏側に置いた数台のモニターを終始気にしていた。携帯電話を起爆装置に使う粘着爆弾を監視するために最近導入したものだ。この爆弾は公務員や活動家、少数民族、ジャーナリストを標的にするだけでなく、一般市民も無差別に巻き込む。タリバンはこうして敵対勢力を封じ込め、都会の住民の恐怖心をあおろうとしていた。2020年2月、米国と和平合意を締結して米軍の完全撤退を取りつけたタリバンは、勢いを増し、農村部の締めつけを強め、都市部にも支配の手を急速に広げていったのだ。

 カフェのあるアイノマイナ地区は閑静な住宅地で、住民の多くが政府関係の仕事に就いている中流から上流のアフガン人だった。「ここにいれば何の問題もありません」と、同地区に住む28歳の英語教師スレイマン・アリャンは言った。しかし、それも過去のものになるだろう。

 2021年8月15日、タリバンは首都カブールを制圧し、アシュラフ・ガニ大統領は国外に脱出したと報じられた。その数日前までにはすでに、同国第2の都市であるカンダハルをはじめ、全土の州都が次々とタリバンの手に落ちていた。

イスラム教の断食月の4月、首都カブール西部にあるコテ・サンギの市場は早朝からにぎわっていた。3900万人の国民の多数を占めるのはスンニ派イスラム教徒だ。少数派のシーア派はスンニ派のタリバンからしばしば標的にされてきた。(PHOTOGRAPH BYKIANA HAYERI)
イスラム教の断食月の4月、首都カブール西部にあるコテ・サンギの市場は早朝からにぎわっていた。3900万人の国民の多数を占めるのはスンニ派イスラム教徒だ。少数派のシーア派はスンニ派のタリバンからしばしば標的にされてきた。(PHOTOGRAPH BYKIANA HAYERI)

 20年前、同時多発テロを実行したアルカイダと、そのテロリストをかくまうタリバン政権を倒すために、米国はアフガニスタンに侵攻した。タリバンの指導者は隣国パキスタンに亡命したが、米国がイラク戦争に忙殺されている隙に戻ってきた。米国政府は開発支援と軍事を主導し、規模が最大となった2011年には、年間支援額は70億ドル(約7700億円)近くに達した。また、米軍と国際治安支援部隊(ISAF)から成る北大西洋条約機構(NATO)軍はこの年、15万人以上の兵を投入した。それでもタリバンを壊滅させることはできないまま、この米国史上最も長い戦争は終止符が打たれることになった。

次ページ:急速に勢力を拡大していくタリバン

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