アフガニスタンが享受してきた自由が消え去ろうとしている。米軍の完全撤退に乗じて、タリバンが再び国を掌握したのだ。
数カ月前の週末、アフガニスタン南部の都市カンダハルにあるカフェには、水たばこの青い煙が立ちこめていた。
ここが戦場であることをつい忘れそうになる。ひげを入念に整え、ゆったりとしたソファに体を沈めてエスプレッソを飲んでいたのは、専門職に就いている若い男性たちだ。頭上のスクリーンにはトルコやインドのミュージック・ビデオが流れているが、あらわになった女性のおなかは放送局の自主規制でぼかしが入っている。
そういうところは保守的なイスラム社会らしいが、カフェの客はタリバン政権崩壊後に成人した世代で、都会の暮らしを自由に満喫していた。カンダハルで生まれたタリバン政権が抑圧的な原理主義を掲げ、男性はひげを整えることが許されず、女性はブルカで全身を覆うことを強制された頃の記憶など、彼らにはほとんどない。
カフェの経営者アフマドゥラ・アクバリは、2018年にドバイから帰国し、カンダハル郊外の開発地区、アイノマイナで商売を始めた。アクバリは店のカウンターの裏側に置いた数台のモニターを終始気にしていた。携帯電話を起爆装置に使う粘着爆弾を監視するために最近導入したものだ。この爆弾は公務員や活動家、少数民族、ジャーナリストを標的にするだけでなく、一般市民も無差別に巻き込む。タリバンはこうして敵対勢力を封じ込め、都会の住民の恐怖心をあおろうとしていた。2020年2月、米国と和平合意を締結して米軍の完全撤退を取りつけたタリバンは、勢いを増し、農村部の締めつけを強め、都市部にも支配の手を急速に広げていったのだ。
カフェのあるアイノマイナ地区は閑静な住宅地で、住民の多くが政府関係の仕事に就いている中流から上流のアフガン人だった。「ここにいれば何の問題もありません」と、同地区に住む28歳の英語教師スレイマン・アリャンは言った。しかし、それも過去のものになるだろう。
2021年8月15日、タリバンは首都カブールを制圧し、アシュラフ・ガニ大統領は国外に脱出したと報じられた。その数日前までにはすでに、同国第2の都市であるカンダハルをはじめ、全土の州都が次々とタリバンの手に落ちていた。
20年前、同時多発テロを実行したアルカイダと、そのテロリストをかくまうタリバン政権を倒すために、米国はアフガニスタンに侵攻した。タリバンの指導者は隣国パキスタンに亡命したが、米国がイラク戦争に忙殺されている隙に戻ってきた。米国政府は開発支援と軍事を主導し、規模が最大となった2011年には、年間支援額は70億ドル(約7700億円)近くに達した。また、米軍と国際治安支援部隊(ISAF)から成る北大西洋条約機構(NATO)軍はこの年、15万人以上の兵を投入した。それでもタリバンを壊滅させることはできないまま、この米国史上最も長い戦争は終止符が打たれることになった。
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