動画撮影を担当したブリタニー・ムマ(前)と写真家のアルマンド・ベガが山頂を目前にして、最後の力を振り絞って進む。登って下りるのに15日間かかる今回の遠征は、計画に1年以上を費やした。(PHOTOGRAPH BY DIRK COLLINS)
動画撮影を担当したブリタニー・ムマ(前)と写真家のアルマンド・ベガが山頂を目前にして、最後の力を振り絞って進む。登って下りるのに15日間かかる今回の遠征は、計画に1年以上を費やした。(PHOTOGRAPH BY DIRK COLLINS)
この記事は雑誌ナショナル ジオグラフィック日本版2021年9月号に掲載された特集です。定期購読者の方のみすべてお読みいただけます。

干ばつと気温上昇により、チリ中部の重要な水源が脅かされている。この危機を乗り切る方法を探ろうと、ナショナル ジオグラフィック協会とロレックスは協力してアンデス山脈の高みに気象観測所を設置した。

 チリとアルゼンチンにまたがってそびえる標高6570メートルのトゥプンガート山。

 その5800メートルを少し越えた地点で、ベイカー・ペリーと登山チームの仲間はひどい目に遭った。早朝、予想外の暴風雪に見舞われ、テントから一歩も出られなくなったのだ。米国ノースカロライナ州にあるアパラチアン州立大学の気候科学者であるペリーは、そのときのことを淡々と振り返る。「そんな厳しさも山の魅力の一部ですが、それ故に、こういった高所にはあまり気象観測所がないんですよ」

 2021年2月、世界でパンデミックが続くなか、ペリーが共同リーダーを務める国際チームは、15日間にわたるトレッキングと登山を経て、雪深いアンデス山脈南部にあるトゥプンガート山に登り、山頂付近に気象観測所を設置した。

気候科学者で登山家のベイカー・ペリー。トゥプンガート山のすぐ南に位置するトゥプンガティート山の標高4450メートル地点にある気象観測装置を調整中。この山では、水と岩のサンプルも採集した。(PHOTOGRAPH BY ARMANDO VEGA)
気候科学者で登山家のベイカー・ペリー。トゥプンガート山のすぐ南に位置するトゥプンガティート山の標高4450メートル地点にある気象観測装置を調整中。この山では、水と岩のサンプルも採集した。(PHOTOGRAPH BY ARMANDO VEGA)

 この観測所は南半球と西半球で最も高所に位置していて、一帯の気候がどれほど早く変化しているのかを科学者たちが知る一助となるだろう。今回の遠征はナショナル ジオグラフィック協会が組織し、ロレックスのパーペチュアル プラネット イニシアチブが支援して実現した。

 科学者たちは、観測所が収集する気温、風速、積雪のデータを活用し、気候変動によってチリ中部と首都サンティアゴで起きているような記録的な干ばつがさらに続き、一帯の貯水タンクの役割を果たしている氷河や雪塊といった山の“給水塔”が縮小したらどうなるのか、理解を深めたいと考えている。

「現在は非常に危機的な状況です」と設置チームの一員である英ラフバラー大学の気候科学者トム・マシューズは懸念する。「この給水塔の下流には何百万もの人々が住んでいます。温暖化に伴い、山の氷河や雪に支えられた水の供給システムがどう変化していくかは、まだほとんどわかっていません」

 トゥプンガート山はチリで6番目の標高を誇り、サンティアゴと周辺の670万の住民が水源として使うマイポ川流域では最も高い山だ。こうした山への降水量をより正確に把握できれば、利用可能な水量を知ることができる。

危うい水資源を見守る
危うい水資源を見守る
チリで6 番目に高いトゥプンガート山は、危うい状況にある水源の一つ。2021年2月、ナショナル ジオグラフィック協会の遠征チームは、その山頂付近に南半球と西半球で最も高所の気象観測所を設置した。気候変動によって干ばつが深刻になり、何百万という人々への水の供給が危ぶまれるなか、降水量を正しく測定し、予測する助けとなるだろう。

縮尺は場所によって異なる。サンティアゴ中心地からトゥプンガート山頂までの距離は約84キロ。(MARTIN GAMACHE, NGM STAFF; ERIC KNIGHT. 出典: EUROPEAN SPACE AGENCY; JAPAN AEROSPACE EXPLORATION AGENCY)

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