干ばつと気温上昇により、チリ中部の重要な水源が脅かされている。この危機を乗り切る方法を探ろうと、ナショナル ジオグラフィック協会とロレックスは協力してアンデス山脈の高みに気象観測所を設置した。
チリとアルゼンチンにまたがってそびえる標高6570メートルのトゥプンガート山。
その5800メートルを少し越えた地点で、ベイカー・ペリーと登山チームの仲間はひどい目に遭った。早朝、予想外の暴風雪に見舞われ、テントから一歩も出られなくなったのだ。米国ノースカロライナ州にあるアパラチアン州立大学の気候科学者であるペリーは、そのときのことを淡々と振り返る。「そんな厳しさも山の魅力の一部ですが、それ故に、こういった高所にはあまり気象観測所がないんですよ」
2021年2月、世界でパンデミックが続くなか、ペリーが共同リーダーを務める国際チームは、15日間にわたるトレッキングと登山を経て、雪深いアンデス山脈南部にあるトゥプンガート山に登り、山頂付近に気象観測所を設置した。
この観測所は南半球と西半球で最も高所に位置していて、一帯の気候がどれほど早く変化しているのかを科学者たちが知る一助となるだろう。今回の遠征はナショナル ジオグラフィック協会が組織し、ロレックスのパーペチュアル プラネット イニシアチブが支援して実現した。
科学者たちは、観測所が収集する気温、風速、積雪のデータを活用し、気候変動によってチリ中部と首都サンティアゴで起きているような記録的な干ばつがさらに続き、一帯の貯水タンクの役割を果たしている氷河や雪塊といった山の“給水塔”が縮小したらどうなるのか、理解を深めたいと考えている。
「現在は非常に危機的な状況です」と設置チームの一員である英ラフバラー大学の気候科学者トム・マシューズは懸念する。「この給水塔の下流には何百万もの人々が住んでいます。温暖化に伴い、山の氷河や雪に支えられた水の供給システムがどう変化していくかは、まだほとんどわかっていません」
トゥプンガート山はチリで6番目の標高を誇り、サンティアゴと周辺の670万の住民が水源として使うマイポ川流域では最も高い山だ。こうした山への降水量をより正確に把握できれば、利用可能な水量を知ることができる。
縮尺は場所によって異なる。サンティアゴ中心地からトゥプンガート山頂までの距離は約84キロ。(MARTIN GAMACHE, NGM STAFF; ERIC KNIGHT. 出典: EUROPEAN SPACE AGENCY; JAPAN AEROSPACE EXPLORATION AGENCY)
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