中国、河南省の官荘遺跡から出土した鋤(すき)型の青銅の硬貨「布銭(ふせん)」。中国最古の硬貨で、世界最古の硬貨の可能性もある。(PHOTOGRAPH BY HAO ZHAO)
中国、河南省の官荘遺跡から出土した鋤(すき)型の青銅の硬貨「布銭(ふせん)」。中国最古の硬貨で、世界最古の硬貨の可能性もある。(PHOTOGRAPH BY HAO ZHAO)
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 中国東部の河南省にある官荘遺跡を発掘していた考古学者たちが、世界最古の貨幣鋳造所を発見した。約2600年前、農具である鋤(すき)の形を模した青銅の硬貨「布銭(ふせん)」を量産していたという。8月6日付で学術誌「Antiquity」に論文が発表された。

 世界で最初に鋳造貨幣がつくられた場所は、現在のトルコとインドと中国の3カ所のいずれかと考えられている。しかし、はっきりと年代が確認された鋳造所は見つかっていなかった。「現時点で、官荘の鋳造所が、確実に年代を特定できるもっとも古い貨幣鋳造所です」と、中国、鄭州大学の考古学者で、論文の筆頭著者である趙昊(ジャオ・ハオ)氏は話す。

 論文によると、城壁と堀を備えた城郭都市の官荘ができたのは紀元前800年ごろ。そして紀元前770年ごろには鋳造所ができ、青銅から儀式用の器、武器、道具などがつくられ始める。ただし、ここで硬貨の鋳造が始まったのは、それから150年ほど経ってからだった。

 放射性炭素年代測定という分析方法により、硬貨が鋳造され始めたのは紀元前640年から550年ごろの間であることがわかった。一方で別の研究によると、現在のトルコ西部にあたるリディアの硬貨は紀元前630年ごろのものとされ、貨幣鋳造のために使ったと思われる精錬の証拠も見つかっている。しかし、その年代は紀元前575年から550年の間であり、またリディアでは、紀元前400年より古い貨幣鋳造所は見つかっていない、と趙氏は言う。

 今回の発掘を通して見つかったのは、2つの布銭と、それをつくるために使われた十数個の粘土の鋳型だ。布銭の1つはほぼ完璧な状態で、長さ約14センチ、幅約6センチ。厚さは最大でも0.9ミリで、重さは約27グラムとA4のコピー用紙7枚ほどだった。

官荘遺跡は2011年から発掘され、工房や、鋳造所の廃棄物を捨てたたくさんの穴が見つかっている。布銭の鋳造が始まったのは、紀元前640年から550年の間と考えられる。(PHOTOGRAPH BY HAO ZHAO)
官荘遺跡は2011年から発掘され、工房や、鋳造所の廃棄物を捨てたたくさんの穴が見つかっている。布銭の鋳造が始まったのは、紀元前640年から550年の間と考えられる。(PHOTOGRAPH BY HAO ZHAO)
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鋳型と硬貨が同時に見つかる意味

 硬貨は家の屋根裏に隠されたり穴に埋められたりなど、つくられた場所から離れたところで見つかることが多い。「つまり、硬貨がどのようにつくられたり使われたりしていたかがまったくわからないのです」と言うのは、米カリフォルニア大学アーバイン校の人類学教授で、貨幣・技術・金融包括研究所(IMTFI)の理事を務めるビル・マウラー氏だ。「しかし、この例では、完全な硬貨の鋳造所だけでなく、使われた鋳型まで見つかっています」

 マウラー氏はこの研究には加わっていないが、ここまで完全な状態で見つかるのはすばらしいと述べる。硬貨と鋳型の両方が見つかり、鋳造の放射性炭素年代測定が可能になった点が、知られている限り世界最古という主張に説得力を与えている。

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