コロナ下の行動を大きく変えてしまう「心理」の秘密

人々の行動を左右するリスク評価、その心理的プロセスから楽観バイアスまで

2021.08.04
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人間は多くの心理的要因に基づいて判断を下すよう進化した。それが、新型コロナへの人々の反応にさまざまな影響を与えている。(PHOTOGRAPH BY SCOTT CAMAZINE, SCIENCE SOURCE)
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 新型コロナ感染症の流行が始まって以来、日々の生活の中で人々は否応なしにリスクの評価を迫られている。オリンピックが開催され、デルタ株が猛威を奮っている今、職場や学校、社会活動などそれぞれの局面で、人々は何を行い、何を避けるべきかを判断していかなければならない。

 しかし、大小さまざまな脅威にあふれるこの世界においては、人は簡単に危険を見誤まり、見過ごし、あるいは意見を違えてしまう。「人によってリスクのとらえ方が異なるというだけでなく、同じ人でも、あるリスクと別のリスクに対してまったく異なる反応をするのです」。リスクを研究する米オレゴン大学の心理学者ポール・スロビック氏はそう述べている。

 どういう行動にどれだけのリスクがあるのかを判断するのは、絶えず認知を試されることだと、米コーネル大学行動経済学・意思決定研究センターの共同代表バレリー・レイナ氏は言う。「よくわからない、まだ起こっていないことを、状況の変化に応じて自分なりに精一杯推測して判断する。これは相当に難しいことです」

 人間はなぜリスクの評価に苦労するのか、脳はリスクに対してどのように反応するのか、そして現在進行中のコロナ禍の中で、個々人のリスク評価の立ち位置はどのように変化しているのだろうか。コロナ禍での人々の行動を大きく左右する、新型コロナのリスク評価の心理的側面について、科学的な知見をもとに解説する。

基本的な心理プロセスは直感と分析

 まず、一部の研究者は、人間のリスク評価と意思決定にはふたつの方法があると考えている。ひとつは反射的かつ感情的なプロセス(経験的思考あるいは直感的思考とも呼ばれる)、そしてもう一つはゆっくりとした、より分析的なモードだ。

「大半の場合、われわれは経験的なシステムで反応します」とスロビック氏は言う。人はこれら両方のプロセスを使えるにもかかわらず、「人間の脳は怠惰で、複雑な状況に簡単な方法、つまり感情で対処できると思うと、そちらのやり方を選んでしまうのです」

 これが悪いわけではない。分析的モードには時間がかかるとスロビック氏は言う。そうした思考は「重要かつ強力ですが、実行するのは大変です」。そのため、人はリスクをすばやく評価するように進化した。獲物を探すライオンから走って逃げるか、それとも立ち向かって戦うかについて、じっくりと考えている暇はないからだ。

「285の平方根を計算しようとしたことがある人なら、じっくり考えるというのがどんな感じがするものなのかわかるのではないでしょうか」と米ミシガン州立大学のコミュニケーション神経科学者ラルフ・シュメルツル氏は言う。熟考は「作業記憶のリソースを大量に消費する」のに対し、直感は瞬時に答えにたどり着く。

 そして、直感は概ねうまく機能する。直感を使うことで「われわれは管理し、生き残り、次の年を、さらには次の20年を乗り切ることができます」とスロビック氏は言う。「危険に満ちた複雑な世界の中で、まあまあうまくやっていけるのです」。とは言え、と氏は釘を刺す。「ときにはひどい間違いを犯すこともあります」

脅威にすぐに反応する脳

 シュメルツル氏は、豚インフルエンザH1N1のパンデミック(世界的大流行)に際して、マスメディアの報道がリスクの認知に与える影響を調査し、2013年に学術誌「Journal of Neuroscience」に発表した。

 ドイツ、コンスタンツ大学の同僚とともに、氏はまず約130人にリスクに関連するさまざまな質問をして、H1N1をリスクとみなす人たちと、そうはみなさない人たちの2つのグループに分けた。

次ページ:楽観バイアス・興奮する結末・コントロール感

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