イタヤラ(Epinephelus itajara)は、体長約2.4メートル、体重約360キロにもなる大西洋最大のハタ科の魚だ。1メートル以上あるサメをひとのみにすることもあり、その巨体が立てる音は、近くにいるダイバーが衝撃を感じるほどだ。(参考記事:「巨大魚イタヤラ、サメをひと飲みに」)
しかし現在、米フロリダ州でこの巨大魚の禁漁を解除する提案がなされている。これが実現すれば、いかに大きな体といえども身を守ることはできない。
2018年まで、大西洋の熱帯から亜熱帯に生息するイタヤラは、国際自然保護連合(IUCN)のレッドリストで近絶滅種(Critically Endangered)に分類されていた。乱獲が主な原因だ。生息地が集中するフロリダ州では、1990年以来、イタヤラ漁が禁止されてきた。
ところが2021年5月、同州の狩猟および漁業を管轄するフロリダ魚類野生生物保護委員会(FWC)は、イタヤラ漁の解禁を検討中だと発表した。FWCからナショナル ジオグラフィックに送られてきた声明には「イタヤラは1990年の禁漁以来、大いに増え続けてきました」と書かれている。
「さまざまな理由で捕獲の許可を求める釣り人や漁業者がいます。例えば、漁の最中にイタヤラに出くわす危険を減らしたい、大型の魚を釣る機会が欲しい、捕獲をいつまでも制限すべきではない、といった要望があります」(参考記事:「絶滅危惧の巨大魚、回復の兆しも「漁業の邪魔」の声」)
しかし、解禁に向けた議論を開始するとの決定は、激しい論争を巻き起こした。魚の個体数を数えることは容易ではないため、フロリダ州の近海にどれだけのイタヤラがいるのか確定することは難しい。それでも多くの科学者は、回復しつつあるものの望まれる個体数には達していないという点で合意する。国際自然保護連合(IUCN)は2018年、イタヤラの保全状況が改善したと判断、それまでの近絶滅種から、より絶滅の危険度の低い危急種(Vulnerable)に変更した。
「ここまでの成功を褒め称えるべきです」と、FWCのロドニー・バレート委員長は5月のプレスリリースで述べ、禁漁はもう十分な期間行われたと論じている。「30年間続けてきたからというだけで、同じことを続けなければならないことにはなりません」
この見解を多くの釣り人が支持した。イタヤラはスポーツフィッシングの対象になる他の魚を食べてしまう邪魔者であり、その増加をくい止める必要があるというのがその主張だ。
だがここ数年、イタヤラの回復は停滞しており、解禁を正当化するには個体数がまったく足りないと多くの海洋科学者が述べている。米フロリダ州立大学の博士課程在籍中にイタヤラを研究していた保全生物学者のクリストファー・マリノフスキ氏もそのひとりだ。
「現時点のデータは、たとえ限定的でも漁を解禁してよいことを示してはいません」と氏は言う。「イタヤラの限定的な捕獲を許可する計画を進めるというFWCの決定は、現在利用可能な最高の科学的証拠に基づいたものではありません」