ドマニシ原人の遺跡から犬の化石、リカオンに近縁か

180万年前の大型イヌ科動物、ペットではない

2021.08.03
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 ドマニシの化石は、現代のオオカミや家畜化されたイヌと同じCanis(イヌ属)に属するのか、それとも別のXenocyon(クセノキオン亜属)に属するのか。バルトリーニ=ルチェンティ氏らもまだ把握できていない。そこで研究チームは、どちらにも属する可能性を残した上で、Canis(Xenocyon)という名称にした。

 このあいまいな名称はおかしく思えるかもしれないが、正当な注意を払った結果だ。たとえば、長らく現代のオオカミに近い仲間と考えられてきた絶滅種のダイアウルフは、今年初め、オオカミとは遠縁であるとする研究成果が発表された。(参考記事:「絶滅オオカミ「ダイアウルフ」、実はオオカミと遠縁だった」

 一方、食性については、ある程度、確実なことが言える。研究チームは、ユーラシアハンティングドッグの歯の大きさを他のイヌ科動物と比較し、彼らがどれくらいの肉を食べていたかを調べた。その結果、ユーラシアハンティングドッグは、食物の少なくとも70%が肉である「超肉食動物」に分類された。リカオンを含む現存のイヌ科動物や、絶滅したイヌ科動物たちも複数属するグループだ。

食物を分け合い、群れで狩りをしたか

 さらに今回の研究では、ユーラシアハンティングドッグとホモ・エレクトスの興味深い類似点も明らかになった。いずれも、複数の大陸へと広がった動物だということだ。ホモ・エレクトスはアフリカで進化し、東方へ向かって、東南アジアの島々に到達。ユーラシアハンティングドッグはおそらくアジアで進化して、西方へ向かい、ヨーロッパおよびアフリカに到達したと考えられている。

 どちらも非常に社会的で、さらには利他的であったと研究者たちは主張している。しかし、100万年以上も前の化石の骨から、どうやってイヌの行動を知ることができるのだろうか?

 利他性を示す重要な証拠の1つは、病的な状態にある頭骨にある。歯が欠けたり、あごが変形した頭骨では、自力で食物を得ることはほぼ不可能だったと考えられる。もしも、その個体がそうした状態になった後も元気に暮らしていたのであれば、他の個体から食物をもらうことができていたに違いないと科学者たちは考えている。

 スペインのある遺跡には、犬歯を含む複数の歯が欠損した非対称のユーラシアハンティングドッグの頭骨が残っている。この個体は7〜8年生きたと見られているが、これは仲間が食物を得るのを助けていたことを示唆している(ドマニシでは、ホモ・エレクトスが食物を分け合っていたことを示す同様の証拠が見つかっている。ある高齢の個体の頭骨が物語るのは、1本を残して全ての歯を失ってから、何年も経った後に死亡したということだ)。

 また、平均体重が約21キログラムを超えるイヌ科動物では、カロリー消費を考慮すると、自分よりも大きな獲物を捕らえる必要があることが科学的に分かっている。それを可能にするには、群れで協力して狩りをするのが望ましい。ドマニシや他の遺跡で見つかった頭骨と歯の測定結果は、ユーラシアハンティングドッグが群れで狩りができる基準を十分に満たしていることを示している。

参考ギャラリー:古代の人々が愛し、描いた犬たち 画像8点(画像クリックでギャラリーへ)
参考ギャラリー:古代の人々が愛し、描いた犬たち 画像8点(画像クリックでギャラリーへ)
アンテロープを狩るイヌの群れ。リビアの遺跡、タドラルト・アカクスに残る1万2000年前の岩絵。(PHOTOGRAPH BY ROBERT PRESTON PHOTOGRAPHY, ALAMY)

 しかし、彼らがドマニシにおいて高度な社会性を発揮していたことを示す直接的な証拠はない。「現代の食肉目では、同じ種でも社会性の程度は多様なことがあります」。米ラ・ブレア・ター・ピッツ&博物館のポスドク研究員で古生物学者のメイリン・バリシ氏はそう話す。なお、同氏は今回の研究には参加していない。「化石記録においても多様性があることは確かだと思いますが、化石で多様性を証明することはさらに困難です」

 今後ドマニシで発見される化石から、かの地におけるユーラシアハンティングドッグの社会性が判明することだろう。また、新しい種類の分子レベルでの証拠からは、彼らがイヌ科の系統樹にどのように当てはまるかが明らかになる可能性がある。2019年、研究者たちはドマニシのサイの歯からタンパク質を抽出し、遺伝子配列を決定することに成功した。バルトリーニ・ルチェンティ氏によれば、チームはユーラシアハンティングドッグの骨からもタンパク質を取り出そうとしたが、成功しなかったという。

 バリシ氏は、イヌの複雑な進化史を解明する上で、今後の展開に期待している。「パズルのピースが増えれば増えるほどいいですね」

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文=MICHAEL GRESHKO/訳=桜木敬子

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