鼻で吸うコロナワクチンが臨床試験へ、高い効果が期待される理由

注射器不要のうえ腕への接種より効果的、「一石二鳥」と専門家

2021.07.27
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 また氏は、接種が簡単になることがこの手のワクチンのもう一つの利点だと指摘する。医療システムが確立されていない国々では特に大きなメリットだ。

 現在承認されているワクチンは非常に有効だが、世界中の全人口に接種するには量が足りない。一方で、パンデミックは収束にはほど遠く、特にインドや一部のアフリカ、南米の国では深刻だ。注射針は供給不足になる可能性があるが、それを使わずにすむことは有利に働くだろう。新型コロナワクチンは、経鼻や経口ワクチンによる「粘膜免疫」の新たな時代をもたらすかもしれない。

組織に“定住”している免疫細胞

 免疫系の話になると、多くの人は血液を思い浮かべるだろう。免疫細胞は、血管内をパトロールして侵入者を探す監視員に例えられる。しかし、過去10年以上の間に免疫系に関する理解が進んだ結果、多くの免疫細胞は組織の中にあることがわかってきた。

 例えば、T細胞の95%以上は組織や臓器に“定住”し、皮膚、腸、脳、肝臓、肺にそれぞれ異なる集団が存在する。主に抗体をつくるB細胞やT細胞と同じリンパ球の仲間であるナチュラルキラー細胞(NK細胞)のうち、子宮NK細胞は妊娠中に子宮の組織の再構築を担う。また、ミクログリアと呼ばれる免疫細胞は脳にあるが、決して血管内に入ることはない。胎児期の早い段階で中枢神経系に移動し、個体が生きている間、ずっとそこに留まる。

 このような組織に特異的な免疫細胞は、病原体を記憶するだけでなく、その病原体が最初に体内に侵入した場所も記憶しているので、ワクチンにとっては好都合だ。

 免疫系はこのような“インプリンティング(刷り込み)”と呼べるような洗練された方法を身に付けたのだと、ハーバード大学の免疫学教授、ウルリッヒ・フォン・アンドリアン氏は説明する。氏は、特定の病原体が体内に侵入した場所を免疫系が記憶していることを、マウスを使って初めて実証した研究者だ。

 免疫系が新たな脅威に対して活性化するのは、「抗原提示細胞」と呼ばれる特殊なマクロファージなどの細胞が、体内に散らばったウイルスの小さな断片を拾い上げ、T細胞に提示したときだ。いわば免疫系による“インテリジェンス・ブリーフィング(情報説明)”だ。

 これはリンパ節で行われる。リンパ節は全身に存在するが、特に首、脇の下、そして鼠径(そけい)部(太ももの付け根のお腹側)に多い。提示で伝えられる内容には、特定の脅威についてだけでなく、それが最初に発見された場所の情報も含まれていることを、フォン・アンドリアン氏は画期的な実験で示した。

 2003年に氏らが行った実験では、マウスから取り出したT細胞を別々のシャーレに入れ、それぞれリンパ節、皮膚、腸から採取した抗原提示細胞と混ぜ合わせた。約1週間後、T細胞を再びマウスに注入すると、腸の抗原提示細胞から情報を提供されたT細胞は、すぐさま腸へと戻った。そして、長い間そこに留まり、侵略に備えていた。

 フォン・アンドリアン氏によると、病原体と最初に遭遇した部位へ移動する方法をT細胞が教わるのもリンパ節だ。鼻の組織に最も近いリンパ節は首にあり、ワクチンを打つ場所である腕につながるリンパ節は「町内の別の地域」にあるようなものだという。

「感染症にかかったら、鼻腔内の粘膜表面が感染し、まず上気道のT細胞や免疫系が準備します。その後、これらの細胞はその場に留まり、常駐して、番兵のように機能することになります」。そう話すのはスウェーデン、カロリンスカ研究所の免疫学者で、T細胞を研究しているマルカス・ブッゲルト氏だ。「腕にワクチンを接種しても、そのようなT細胞応答は得られません」

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文=MONIQUE BROUILLETTE/訳=桜木敬子

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