コロナワクチンの追加接種はまだ不要、科学者らが主張する理由

変異株の拡大で製薬会社は緊急承認を要求、なぜ意見が食い違うのか

2021.07.21
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元陸軍衛生兵のエルビン・トロ氏(26歳)が、米ロードアイランド州セントラルフォールズのセントラルフォールズ高校で、地元住民にワクチンを接種する前に注射器を準備する。(PHOTOGRAPH BY JOSEPH PREZIOS, AFP VIA GETTY IMAGES)
元陸軍衛生兵のエルビン・トロ氏(26歳)が、米ロードアイランド州セントラルフォールズのセントラルフォールズ高校で、地元住民にワクチンを接種する前に注射器を準備する。(PHOTOGRAPH BY JOSEPH PREZIOS, AFP VIA GETTY IMAGES)
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 新型コロナウイルスワクチンの規定回数の接種を終えた米国人にとって、落ち着かない日々が続いている。感染力の強い変異株が次々と出現する中、ワクチンの追加接種を今すぐ、または将来的に受ける必要があるのかについて、製薬会社と米当局で見解が食い違っているからだ。

 7月8日、米ファイザーと独ビオンテックは、両社が共同開発したワクチンの追加接種の緊急承認を求める予定だと発表した。ワクチンの効果が弱まっているとのデータがあり、「完全接種後6~12カ月以内に追加接種が必要になる可能性がある」というのがその理由だ。12日にはファイザー社の代表者が米保健当局と会談し、3回目の接種の緊急承認を求めた。

 しかし米規制当局はファイザー社の主張を受け入れなかった。米食品医薬品局(FDA)と米疾病対策センター(CDC)は共同声明で、ワクチンの接種を完了した米国人は「現時点で追加接種を受ける必要はない」と述べ、ワクチンが重症化や死亡を防ぐ高い効果を維持している点を強調した。

 米保健福祉省の広報担当者はナショナル ジオグラフィックの取材に対し、規制当局はファイザーなどの製薬会社や研究機関、臨床試験から得られたものを含め、あらゆるデータを考慮していると述べた。「関係機関による情報の共有に感謝しています。本省では、追加接種が必要かどうか、いつ、誰にとって必要なのかを検討するために、科学的根拠に基づく厳格なプロセスに引き続き取り組んでいます」

 実際、ファイザー社の研究とは逆に、同社のワクチンによる予防効果が何年も持続することを示唆する新しい実験データも出ている。

 一体、本当のところはどうなっているのだろうか。この記事では、接種を終えた人の免疫の持続期間についてこれまでに分かったことと、科学者が追加接種を勧める前に今後知りたがっていることを中心に見つつ、追加接種をめぐる状況を解説する。

抗体がすべてではない

 まず、体の免疫反応についての簡単な説明から始めよう。通常、免疫反応には2つの段階がある。最初の防衛ラインは自然免疫で、異物や病原体を破壊する一般的な免疫反応をすぐに引き起こす。次に、特定の細菌やウイルスを標的とする適応(獲得)免疫系が働き、その病原体から短期的・長期的に体を守る抗体を作る。

 これは、白血球の一種であるT細胞とB細胞の助けを借りて行われる。米ペンシルベニア大学免疫学研究所のE・ジョン・ウェリー所長によれば、T細胞は「これらの複雑な免疫反応の調整役のような存在です」。T細胞はB細胞を育て、B細胞は成熟して「形質細胞」に変化する。ウェリー氏いわく、その使命はただ一つ。「抗体の工場です」

 ただし、新型コロナワクチンによって生成された中和抗体のレベルは、時間の経過とともに低下することが研究で明らかになっている。ファイザー社は8日の声明で、同社のワクチンを3回接種すれば、2回の接種に比べて5〜10倍の抗体反応が得られると発表した。しかし、同社はまだそのデータを公表しておらず、広報担当者はナショジオに対し、公表に向けて準備中だと語った。

 ウェリー氏は、中和抗体の存在が決定的に重要であることは間違いないものの、それがすべてではないと語る。

次ページ:長期戦への備えは「非常に強固」

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