米国で脚光 ウィスコンシンに集まるフォーク・アートの魅力

かつて低俗と軽視されたビジョナリー・アートやセルフトート・アートが注目されている

2021.07.22
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トレス・バーズ建築事務所が設計したウィスコンシン州シボイガンのアート・プレサーブは、セルフトート・アートやビジョナリー・アートの作家に、新たな展示スペースを提供する。木とガラスを多用したのびやかなデザインは、こうした作品の多くが生まれた屋外を連想させる意図がある。 (PHOTOGRAPH BY KEVIN MIYAZAKI, THE NEW YORK TIMES/REDUX)

素朴な伝統の保護

 かつてビジョナリー・アートは、「低俗だ」「繊細さがない」と軽視されていた。でも、1980年代に入って、人気だけでなく評価も高まる。現在、メリーランド州ボルティモアの米国ビジョナリー・アート美術館とイリノイ州シカゴのイントゥイット:センター・フォア・インテュアチブ・アンド・アウトサイダー・アートは、こうした作品を中心に所蔵している。

 アート・プレザーブは、ビジョナリー・アート分野の大規模な建築作品の展示と保存を目的としたものとしては、世界最初の美術館となる。現地から家屋全体や作業所、彫刻庭園などを移送し、慎重に組み立てて展示している。

 4000万ドル(約44億円)が投じられたこの施設は、長年にわたってコーラー・アーツセンターのディレクターを務めたルース・デヤング・コーラー2世氏の発案で作られた。彼女は、1960年代の末にフレッド・スミス氏に会って、そのコンクリート像を鑑賞して以来、アーツセンターの方向性をビジョナリー・アートへと転換してきた。残念ながらコーラー氏は、2020年、この美術館が完成する直前に死去している。

 2009年、コーラー氏はニューヨーク・タイムズ紙に次のように話している。「レンブラントのような画家は、1点ずつ作品を制作していたので、対象を全体としてとらえていなかったかもしれません。でも、ビジョナリー・アートの作家たちは、しっかりと全体を見ています。彼らの視点は1枚の絵よりも大きいのです」

 この美術館は、多様な作品の新しい「家」となった。その一つ、20世紀のネブラスカの彫刻家、エメリー・ブラグドン氏の「ヒーリング・マシン」は、ワイヤーを使ったきらめくモビールと木製の箱が部屋いっぱいに並ぶ作品で、エメリー氏はこれで電気を刺激できると信じていた。また、ウィスコンシン州のリーバイ・フィッシャー・エイムズ氏の作品もある。彼は、南北戦争の戦場で負傷して大工の職を退いた後に、工芸品の制作に取り組み、小さな手作りの木箱に実在(キリン、ゾウなど)の動物や空想上の動物の像を入れて、箱を重ねて作品とした。

 型破りですばらしい作品を見ると、驚嘆せずにはいられない。さびた金属スクラップ製の宇宙船で空を旅するのはどんなものだろうか。ラインストーンで覆われた家で暮らすのはどんな気分だろうか。そんな想像までかきたててくれる。

「アート作家たちが大規模な作品を制作するのは、断片ではなく、すべてを経験してもらうためです」とギャップマイヤー氏は話す。「こうした作品に出会うことで、私たち自身の創造性も豊かになるでしょう」

参考ギャラリー:いつか訪れたい、世界の美しい図書館 22選(画像クリックでギャラリーページへ)
王立ポルトガル文学館は、壮麗なポルトガル後期ゴシック様式を復活させたネオマヌエル様式建築の典型だ。内部の立派さに加え、建物の石灰岩のファサードにはバスコ・ダ・ガマなどポルトガルの探検家が描かれている。入場は無料で、写真撮影も可能。(PHOTOGRAPH BY MASSIMO LISTRI)

文=KRISTINE HANSEN/訳=稲永浩子

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