魚も覚せい剤中毒になる、実際の川の濃度で、チェコ

活動が鈍り禁断症状を露呈、繁殖や採餌に影響を及ぼすおそれも

2021.07.13
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イタリア、ロンバルディア州の自然保護区を泳ぐブラウントラウト。(PHOTOGRAPH BY FRANCO BANFI / NPL / MINDEN PICTURES)
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 覚せい剤がわずかな量でも川に流れ込むと、魚が依存症になる可能性があるという研究結果が、7月6日付けで学術誌「Journal of Experimental Biology」に発表された。

 東欧の川でよく見られるブラウントラウト(Salmo trutta)を、チェコとスロバキアの下水処理場のすぐ下流と同じレベルの覚せい剤「メタンフェタミン」にさらす実験を行ったところ、活動が鈍るなどの依存的な行動と離脱症状(禁断症状)が見られた。野生の魚がメタンフェタミン依存症になった場合、繁殖や採餌に支障を来すおそれがある。

「メタンフェタミンの使用者が自分でも知らないうちに、身近な生態系で魚の依存症を引き起こしているかもしれないことに驚きました」と、チェコ生命科学大学の行動生態学者で、今回の研究を率いたパベル・ホーキー氏は述べている。

 ホーキー氏によると、メタンフェタミンの依存症は世界的な健康上の脅威と見なされている。気分の浮き沈み、妄想、心拍数や血圧の上昇を引き起こし、場合によっては死に至ることもある。

 新型コロナのパンデミック(世界的大流行)中とその前の数年間、欧米ではメタンフェタミンの使用率が急増した。メタンフェタミンはうつ病の治療や嗜眠の改善に処方されるほか、違法に出回ってもいる。米国立薬物乱用研究所が1月に発表した調査結果によれば、米国では2011年から2018年の間に、メタンフェタミンの過剰摂取による死亡率がすべての人種、民族で増加していた。

 メタンフェタミンは体内で代謝された後、便や尿と一緒に排出される。下水の汚染物質は下水処理場で除去されるが、すべてを取り除くことはできない。そのため、川はあらゆる水質汚染の影響を受ける。

 コカインやヘロインからメタンフェタミンや経口避妊薬まで、下水に含まれる多くの薬物が生態系、なかでも魚に害を及ぼしている証拠が増えているが、今回の実験結果はそれらを補強するものだとホーキー氏は述べている。例えば、ブラウントラウトは多くの捕食者にとって重要な獲物であり、その数や行動が変化すれば、食物連鎖とともに影響が拡大する可能性がある。

脳に含まれる量とも関連

 ホーキー氏らは実験のため、メタンフェタミンが入っている水槽と入っていない水槽を用意し、2カ月間、それぞれにブラウントラウトを60匹ずつ入れた。自然環境を再現するため、薬物の濃度は、ほかの研究チームがチェコとスロバキアにある下水処理場のすぐ下流で記録したメタンフェタミンの濃度(1リットル当たり1マイクログラム)に合わせた。

 魚たちを水槽から出すと、最初の数日間、メタンフェタミン入りの水槽にいた60匹は活動量が低下した。研究チームは薬物からの離脱によるストレスと解釈している。脳組織を分析した結果、最も活動量が低下した魚たちの脳に最も多くのメタンフェタミンが含まれていた。

次ページ:ウナギやほかの魚でも

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