植物由来のコロナワクチンが最終治験に、まもなく実現か

高額な培養設備が不要、「植物由来ワクチン」とは

2021.07.09
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カナダ、ケベック市にあるメディカゴ社の温室で、ワクチンをつくるタバコ属の植物をチェックするスタッフ。(PHOTOGRAPH BY MATHIEU BELANGER, REUTERS)
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 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック(世界的大流行)によって、世界各国のワクチン生産能力の大きな格差が明らかになった。現在のワクチン生産方法は、高額で複雑だ。そのため、ワクチンを生産できるのはひと握りの国々に限られるうえ、そのような国々でさえ、頻発する汚染と品質管理の課題に直面してきた。

 既存のワクチンには、マイナス60℃もの超低温で輸送、保管しなければならないものもある。こうしたワクチンの低温流通システム(コールドチェーン)は、高コストなだけでなく、へき地のコミュニティやインフラが不十分な国々にとって流通の大きな障壁になっている。

 その打開策は、ワクチン生産に植物を利用することだ、と考える科学者がいる。

 人体に使用できる植物由来ワクチンはまだ出回っていないが、複数のプロジェクトが進行中だ。カナダのバイオテクノロジー企業のメディカゴ(田辺三菱製薬の子会社)は、タバコ由来の新型コロナワクチンを開発した。現在、全世界のおよそ3万5000人を対象に第3相臨床試験(最終段階の治験)が行われている。同社の医療担当役員、ブライアン・ワード氏によれば、同社が開発した植物由来のインフルエンザワクチンはすでに臨床試験を終了し、カナダ政府の最終承認を待っているところだ。

 2020年12月には、英ブリティッシュ・アメリカン・タバコ(BAT)傘下の米ケンタッキー・バイオプロセッシングが、植物由来の新型コロナワクチンの第1相臨床試験を開始すると発表した。また、同年10月には、日本の化学大手デンカの子会社であるドイツ、アイコンジェネティクスも、植物由来のノロウイルスワクチンの第1相臨床試験を開始している。

 大学研究機関や、バイオ技術の新興企業、そして各国政府は、この分野の取り組みを拡大するために多額の資金を投入して協力関係を整備してきた。韓国政府は、植物由来ワクチンの研究に135億ウォン(約13億円)を投入した。2021年10月には、浦項(ポハン) 市に韓国初の生産施設が開設される予定だ。植物由来ワクチンの市場規模は、現在の4370万ドル(約48億円)から今後7年間で6億ドル(約660億円)弱にまで上昇するという試算もある。

「植物由来ワクチンの開発は、ゆっくりとではありますが、着実に前進しています。現在、新型コロナワクチンの迅速な生産が実現可能な段階に来ています。おそらく半年もあれば、数千万回分のワクチンを生産できるでしょう」。米コーネル大学の微生物学者で、作家でもあり、植物研究と農業バイオ技術を専門とするキャスリーン・ヘフェロン氏はこう話している。「もうすぐ複数の成功事例を目にすることになります。この取り組みが植物由来ワクチンの開発に新たな進展の道を開くことを、大いに期待しています」

従来のワクチンが抱える大きな問題

 植物由来ワクチンは今に始まったことではない。その概念は約30年も前に実証済みだ。研究者たちは、イモ、米、ホウレンソウ、トウモロコシなどの植物を使って、デング熱、ポリオ(小児まひ)、マラリア、ペストなどのワクチンを開発してきた。

 だが、いずれも臨床試験の最終段階まで進むことはなかった。ヘフェロン氏によれば、おそらく植物由来薬品に関する法制度の欠如や、新興バイオテクノロジーへの投資がためらわれたことが原因だった。

 2006年には、家禽類が感染するニューカッスル病の植物由来ワクチンを、米農務省が承認した。しかし、人間用の植物由来ワクチンが承認されたことはなく、最近までは、臨床試験の最終段階まで進んだものもなかった。

次ページ:従来の製法は高コスト

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