米国最初の国旗を作ったのはベッツィー・ロスだと言われているが、それが真実であるという証拠は見つかっていない。独立戦争の約100年後、全米を熱狂させた国旗フィーバーの中で生まれた伝説だ。(ALAMY STOCK IMAGES)
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 植民地だった米国が独立を宣言した18世紀後半、当時の首都フィラデルフィアで、一人の女性が最初の星条旗を作ったという。その人の名前はベッツィー・ロスことエリザベス・グリスコム・ロス。彼女の物語は、米国の小学校では演劇の定番になっており、愛国伝説として語られることもある。

 しかし、米国で愛されているこの物語は現在、作り話と考えられている。

「調査した歴史の専門家はみな、ベッツィー・ロスが最初の星条旗を作った、あるいはデザインに貢献したという確かな証拠はないと述べています。そもそも、国旗を検討する組織があったかどうかすら定かではありません。存在していたかもしれませんが、何の証拠もないのです」。ジャーナリスト兼歴史家で、『Flag: An American Biography(星条旗の歴史)』の著書があるマーク・リープソン氏はそう述べる。(参考記事:「米国の首都ワシントンD.C.は、なぜ州ではないのか?」

 では、実在の人物であるベッツィー・ロスはなぜ、星条旗の伝説に織り込まれ、広く知られるようになったのだろうか?

ベッツィー・ロスが最初の国旗を作ったという伝説に着想を得て、多くの作品が生み出された。ヘンリー・モスラーの絵「The Birth of the Flag(国旗の誕生)」には、ロスとアシスタントたちがフィラデルフィアの家で旗を縫う様子が描かれている。(BARBARA LOE COLLECTION, BRIDGEMAN IMAGES)
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ベッツィー・ロスの生涯

 ロスの名前は、建国の父たちとともに教科書によく登場する。だが、実際のロスの生涯はわりと平凡だ。エリザベス・グリスコムは、1752年にニュージャージー州グロスター・シティで生まれ、クエーカー教徒として育てられた。そして1773年、フィラデルフィアで室内装飾品製造の見習いとして働いているとき、独立宣言の署名者も出したフィラデルフィアの名家の出であるジョン・ロスと駆け落ちした。その結果、彼女はプロテスタントと結婚するという「無秩序」と「不従順」を理由に、クエーカー教会から追放された。

 ベッツィーとジョンは装飾品の製造業を営みつつ、ジョージ・ワシントンらと同じ教会に通い、フィラデルフィアで活発な社交生活を送った。だが、ジョンは独立戦争で1775年に死亡。ベッツィー・ロスはその後2回結婚し、7人の子どもをもうけることになる。ロスの周辺には、この新しい国の重要人物が大勢いた。同じ教区には、15人の独立宣言署名者や独立戦争の主要人物が所属していた。また、独立戦争期には、ペンシルベニア海軍の旗を縫ったり、大陸軍にテントなどの物資を提供したりした。

 ロスが亡くなったのは1836年。84年の生涯だった。だが、歴史にロスの名が現れはじめたのは、1870年以降のことだ。ロスの孫であるウィリアム・J・キャンビーが、ペンシルベニア歴史協会で行った星条旗の歴史についての講演で話したことがきっかけだった。

次ページ:孫が語り始めた「ベッツィー・ロスの伝説」

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