かつての寄宿生が語る、カナダによる先住民同化教育の過去

先住民寄宿学校跡地で無名の墓が数多く見つかり、過去の政策の問題が再び焦点に

2021.07.05
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カナダ、サスカチワン州にあったマリバル先住民寄宿学校の元生徒ディーディー・レラットさんは、「自分に注意が向くのが怖くて、トイレへ行きたいと申し出ることすらできませんでした」と語る。写真家のダニエラ・ザルクマン氏は、学校跡地に生えていた草を撮影し、レラットさんの横顔に重ねて、この写真を作成した。(PHOTOGRAPH BY DANIELLA ZALCMAN)

 カナダ先住民のディーディー・レラットさん(60歳)が、サスカチワン州カウエセスのマリバル寄宿学校に入れられていたのは、51年も前のことだ。しかし、そこで経験した虐待の記憶は、今もレラットさんに付きまとって消えることはない。「あの場所は、恐怖に満ちていました」

 2021年6月23日、カウエセス・ファースト・ネーションが居留地内のマリバル寄宿学校跡地で751もの墓標のない墓を発見したと発表すると、レラットさんのなかで再びその恐ろしい記憶がよみがえった。「答えを知りたいです。なぜ誰も通報しなかったのか。なぜ虐待を止められなかったのか」。マリバルに強制的に連れて行かれたとき、レラットさんはわずか5歳だった。「あの墓に埋められたのは、私だったかもしれません」

クアッペル先住民寄宿学校があったサスカチワン州のレブレット村。学校の建物はほとんど取り壊されたが、この写真の右端に写る建物だけは、今も残っている。(PHOTOGRAPH BY DANIELLA ZALCMAN)

 先住民の子どもたちを教育していたカナダの寄宿学校跡地でこのような墓が見つかったのは、これが初めてではない。5月末、ブリティッシュコロンビア州のテカムルプス・テ・セクウェプフ・ファースト・ネーションが、カムループス先住民寄宿学校跡地で地中探知レーダーを使い、215人の子どもの遺骨を発見したと発表した。それから数週間のうちに、ほかのファースト・ネーション(カナダ先住民)でも同様の発見が相次いだ。

 カナダ各地に先住民のための寄宿学校が建てられたのは1880年代のこと。そこでは15万人以上の子どもたちに対し、カナダの支配的文化に同化させる教育が行われた。その結果、「文化のジェノサイド(大量虐殺)」が起こったことは、「国家の真実と和解調査委員会(TRC)」による調査で明らかなっている。TRCは、2015年に最終報告書を公開した。(参考記事:「幻のセコイア州の歴史、米国先住民の権利ふたたび」

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 政府が運営する最後の寄宿学校は1996年に閉鎖されたが、その痛ましい負の遺産は、被害者本人たちだけでなく、その子どもや孫の世代にいたるまで、今なお先住民社会を苦しめている。

「自分たちでどうやってこの傷に向き合ったらいいのかわからなかったので、全て内に抱え込み、それを次の世代まで受け渡してしまったんです」。マリバル寄宿学校の生徒だったマーセル・エラリーさんは、ナショナル ジオグラフィックのエクスプローラーでもあるダニエラ・ザルクマン氏に対してそう語った。

 ザルクマン氏は、元生徒たちに話を聞き、この強制同化による影響を探る写真プロジェクト「Signs of Your Identity(アイデンティティのしるし)」を発表した。(参考記事:「美しくも奇妙なアメリカインディアンの12の肖像」

ギャラリー:カナダにあった先住民寄宿学校、元生徒たちが語る虐待による悲劇 写真10点
クアッペル先住民寄宿学校の創立者ジョセフ・ヒューゴナード神父の像は、2021年6月21日に撤去された。神父の両脇に立つのは、民族衣装を着た髪の長い先住民の子どもたちだが、民族衣装も長い髪もクアッペルでは禁じられていた。(PHOTOGRAPH BY DANIELLA ZALCMAN)

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